誤解されている ABL

ABL (Asset based Lending) は「動産担保融資」ではなく、「事業性評価に基づく融資」だと思っています。

担保という言葉はどこにも入っていないのです。

12月11日の第3回 商工中金あり方検討会議の議論の中で、この点が明快になりました。

議事録からその部分を取り出してみました。

森俊彦さん(日本動産鑑定 会長)

「ABLというのを動産担保融資というような担保の発想で使っている金融機関は多いのですね。ところが、担保の発想になりますと、不動産担保でとり切れないので、信用保証協会の保証もとり尽くしていると。だから、動産でもう最後の手段でみたいな、売掛債権も担保で、それをABLと思っている。私からすると勘違い金融機関と呼んでいるのですけれども、担保の発想でABLをとらえる限り、事業の中身を見ない。つまり、不動産担保のかわり、信用保証協会の保証のかわりと。ですから、真に事業を見るという意味でのAsset Based Lending、まさにアセット・事業性資産、ベースド・評価に基づく、レンディング・融資ですから、事業性資産の評価に基づく融資、短く事業性評価融資と私は呼んでいるのですけれども、真の意味でのABLを使いこなしているところは少ないです。」

多胡

「ABLですが、それなりの大企業のABLと中小小規模企業のそれは違うものだと思っています。大企業の場合はノンリコースローンのようなファイナンスの一形態。ところが中小小規模企業では違う。後者の視点で見ると、先ほど森さんもおっしゃいましたけれども、日本の場合、ABLを誤訳したのです。「動産担保融資」とやったのです。ABLの日本語訳は、森さんがおっしゃったとおり、本来「事業性評価融資」なのです。事業資産というのはバランスシートに乗っかっている棚卸資産みたいなものもあれば、オフバランスだったら知的資産もあるわけです。要するに事業実態把握の手段、それを見て貸せというのがABLなのです。
 ところが、「担保融資」とやった途端に話が違うし、動産担保をとられたら、つまり事業実態そのものを担保に取られるということですから、中小企業の資金調達ソースが限定されてしまいますよね。動産担保をとった金融機関以外からは金を借りられませんよ。だから、ABLをとられたら、ある意味、一行取引、そのぐらいを覚悟しなければいけないのです。
 かつてメガバンクがフィービジネスの一環で中小企業向けにABLのシンジケートローンをやろうとしましたが、大手企業向けのストラクチャードファイナンスの発想の延長であり、これを本来、実態把握の手段である中小小規模企業向けABLと混同したに過ぎません。だから、普及しなかったのです。ABLの訳語に担保という言葉を入れた途端に、本質がどこかに行ってしまう。そこには導入したときのミスがあったと思いますね。」

———–

中小小規模企業のABLは、当該企業との取引から逃げない姿勢 (企業側が不適切な行動をした場合は除く) の金融機関だけがやるべきものです。担保の“足らずまえ”の穴埋め手段ではありません。

ほとんどの業界関係者が誤解しているのは気になるところです。

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コメント

  1. 寺岡雅顕 より:

     ある金融機関が赤字補填資金を(例えば)在庫に担保設定して融資したとすると、他の金融機関の経常運転資金が「アッ」と言う間に赤字資金に入れ替わります。

     

     当然、経常運転資金を融資している金融機関は黙っているわけはなく、お取引先企業を窮地に追い込むことも考えられます。

     経常運転資金は換金可能な流動資産が見合いにある、ということすら理解できなくなっていると感じています。

  2. 旅芸人 より:

    寺岡さま

    本年もよろしくお願いします。

    いつも的確なコメントをいただきありがとうございます。

    引き続き、ご教授、お願いします。