事業性評価ではなく事業理解

全国各地の財務局が本年3月に開催した「金融仲介の質の向上に向けたシンポジウム」の模様が、それぞれの財務局のホームページにアップされています。

すでにこのブログでも紹介した中国財務局、福岡財務支局のように、議事録そのものを開示し、臨場感を持った発信しているところもあれば、要約のみ、項目だけ、といった財務局もあり、かなりの温度差を感じます。

横並び意識の強い役所のやることにしては珍しい現象です???

さて、福岡財務支局のパネルディスカッションの議事録を読んでいて、非常に気になるところがありました。

信用金庫、信用組合の事業性評価に関する指摘の部分です。

「北部九州ですと小さい規模の組合さん、金庫さんが多くなっています。もちろん一生懸命取り組んでいるとは思いますが、ともすると、マンパワーや経営体力の問題などもあって、事業性評価は難しいと仰います。」(原文通り)

パネルディスカッションのコーディネータを務めた福岡財務支局の金融監督官の問題提起です。

マンパワーや経営体力の問題で事業性評価ができないとは、どういうことでしょうか。まったくもって理解不能です。

事業性評価は、中小企業小規模企業の事業実態を把握することです。

日頃の接点の中で事業者との信頼関係を築き、事業者の声に真摯に耳を傾けることで、顧客の事業を深く理解することだと思います。

まさに協同組織金融機関の原点なのです。にもかかわらず、マンパワーや経営体力の問題でできないと平然と言うようでは、経営者の能力に問題ありと考えずにはいられません。

九州北部の信金信組が、事業性評価を「コンサル屋っぽく事業性評価シートを作ること」だと思い込んでいるとしたら、それは大間違いです。

当該シンポジウムの基調講演を行い、パネリストとしても登壇した森俊彦さん (日本動産鑑定会長、もと日本銀行 金融高度化センター長) は次のように説明しています。

「信用金庫さん、信用組合さんの中には、事業性評価と言われても実際のところできませんといった声も耳にします。しかし、何度も言いますが、専用当座貸越は動態の事業性評価そのものです。それに、ローカルベンチマークを合わせて使う。商工会議所、商工会、日本税理士会、TKC 全国会などを通じて社長さんには今、広がっている。また、いろいろな省庁の補助金、助成金と連動していますので、ローカルベンチマークをうまく活用していく。ローカルベンチマークを使い 倒している信金さん、信組さんが、実際にございます。
それと、ネットワークづくりもすごい勢いで進んでいます。信用金庫さん、信用組合さんというと、相互扶助で、自分たちの地域だけでといった印象が強くありますが、その殻を打ち破りながら、信用金庫さん、信用組合さんも、いろいろな業務提携をすることによって、ビジネスマッチングの先をどのようにつないでいくか、それができると感じていますし、実際に、やっています。例えば、東京都の第一勧業信用組合の新田理事長さんですが、いろいろな地方の信用組合さんと業務提携をしています。地方の市や地銀さんとも業務提携しています。信用組合さんがですよ。ですから、やろうと思えばできます。私からすると、金融機関の規模は関係ありません。やるかどうかです。」(原文通り)

かつて、ある地銀幹部が「事業性評価という上から目線ではなく、事業理解だ」と言いました。

事業性評価という言葉は、頭デッカチのコンサル屋っぽくて、ワタシも好きではありません。

信金信組の経営者の皆さん、事業性評価を《事業理解》と読み替えてみたらどうでしょう。

それでも難しいですか?


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コメント

  1. 橋本卓典 より:

    規模が小さい信金信組。。。もっとも有利だと思いますが。。。組織を管理できない程の「規模」と付きまとう「コスト」こそ危ういことがなぜ分からないのでしょうか。ご指摘の通り、シートをつくることが事業性評価ではまったくありません。また評価することが目的でもありません。お客様から、財務では見えない資産や価値を教えていただくことです。一言で言えば、寄り添い、共感を得られるか、です。

  2. 高見守久 より:

    事業性評価と言いますと、分厚い事業性評価報告書を連想しがちとなります。事業理解と言われますと、肩ひじ張らなくても良い印象を持ちます。私が35年間在職した信用金庫における経験から言いますと、金融機関のマンパワーや経営体力など関係ありません。先ずは取引先経営者と信金信組の役職員との間で話し合う機会を持つことです。お互いが胸襟を開いて議論するのに多少の時間が要するかもしれませんが、そこが地元金融機関の強みで、別に土・日や帰宅時に取引先へ訪問するのも、経営者の人なりも分かりますし、事業内容も詳しく教えてもらうこともできるからです。規模の大小ではなく、その金融機関しか持ちわせていない特性や特徴を生かして、事業性評価あるいは事業理解を深めていただきたい。

  3. 寺岡雅顕 より:

     リレーションシップバンキングの基本は 「向き合う、観察する、語り合う」の 「M、K、K」 だと思っています。

     「事業性評価の罠と事業性理解の実務」を機会があるたびにお話ししています。.しかし、形から入る金融機関の性かもしれませんが、理解していただけないことの方が多いようです。(事業性評価の件数を当局に報告するためにシートが必要だと考えるのでしょうか?)

     協同組織金融機関は、地銀以上に地域に密着した活動が可能ですので、有利な位置にあるように感じています。

     定型的な(事業性評価シート)のようなものを埋めさせることが目的化すれば、マンパワーが足らないなどとのお話しになってしまいます。