2年前の拙稿

「季刊 事業再生と債権管理」の2016年10月号の巻頭言、

『プリンシプルベースって、難しいですか?』

のオリジナル原稿です。

この週末、森金融行政の3年間を振り返り、その間に書きとめた、質より量とも言える拙稿群の中から、これをピックアップしてみました。

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文藝春秋8月号 (「英EU離脱でジタバタするな」) で、浜矩子さんが「ルールのお仕着せを何より嫌うのがイギリス人魂」だと書いています。それに対し、何よりもルールありきで自ら進んでルールの奴隷になってしまうのが、日本の地域金融機関です。言い方を変えれば、彼らの一番苦手なのがプリンシプルベースなのです。

金融検査マニュアルが地域金融の本質 (そこにはプリンシプルがある) を豹変させてしまったことは否めませんが、その背景には、担い手である地域金融機関の過度なルール好きにあるものと考えられます。

また、10年前にリレバンの議論の中でプリンシプルベースが謳われましたが、金融機関(行政も)が自主的に求めた「リレバン・チェックリスト」の壁に押し返されてしまったという苦い経験があります。

プリンシプルベースが不得手ということは、プリンシプルを実際の経営戦略へと落としこむ上での想像力、思考力、分析力、判断力、リーダーシップなどが脆弱なことに他なりません。ルールベース好きには、言われたことをやりさえすれば良いという無責任さを感じます。

2015年12月より、地域金融・中小企業金融のあり方につき、「金融仲介の改善に向けての検討会議」で非常に意味のある重要な議論がなされていましたが、それについてはあまり報道もされず、当事者たるべき地域金融機関の意識もさほど高いとは思えませんでした。

それが第5回の検討会議(6月27日)でベンチマークが論点に上がり、具体的なベンチマーク像が見えてくるや、地域金融機関やメディアが一斉に動きを開始しました。筆者のところにも、金融機関やメディアなどの多くの方 (存じ上げない方も含む) から、金融庁の導入する「ベンチマーク」の内容を教えてくれとの照会を受けました。(非公表の内容なのでお断りしましたが)

予想通りというか、はたまたこのような現象に遭遇し、「プリンシプルベースの道遠し」の感は否めません。

言うまでもありませんがベンチマークは単なる計測手段に過ぎません。まずは計測対象のビジネスモデルの見直しから取り組むべきです。地域金融機関の喫緊の課題は、地域金融・中小企業金融の「理念」に立ち返り、そこからビジネスモデルを作り直すことです。従来型の自己本位のビジネスモデルを「顧客本位のビジネスモデル」へとスクラップ・アンド・ビルド、それを軸にした地方創生を支援することです。

この顧客本位のビジネスモデルの成果を図る手段がベンチマークであることを正しく認識し、ベンチマークが一人歩きしないよう、注意を払わねばなりません。チェックリストが暴走して、真意が浸透しなかった「なんちゃってリレバン」の再来は真っ平ご免です。

地域企業の再生から地方創生に向けて待ったなしです。ベンチマークが一人歩きし、ビジネスモデル (そのベースには地域金融、中小企業金融の理念がある) が歪められるような本末転倒なことをやっている場合ではありません。失礼ながら、プリンシプルベースが理解できない経営者(地域金融機関)には退場いただくことも考えねばならないでしょう。

(2016/7/12)
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本稿が掲載されてから、2年が経過しましたが、状況はまったく変わっていません。

レイジーバンクが自主的に覚醒することは絶望的となった今、金融庁の金融仲介に関わる新事務年度の施策への期待が高まります。

「長官が変わればもとに戻る」などと寝ぼけたことを放言する レイジーバンクは、ほどなく冷や水を浴びせられるでしょう。

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コメント

  1. ミザール より:

    私のところの役職員もルールが好きです。不祥事防止対応として規程・マニュアルを見直し、その後その決め事が顧客へ不便をかけるものであることが分かっても、規程・マニュアルで決まったこととして済ませる。ルールを変更して顧客の不便(担当職員の苦労の解消)をなくそうとは考えない。

    何事もですが、手段が目的化していくことを何も変とは思わない。

    これは当方のところだけでなくどこも同じと思われますが。

    そして今地域金融機関は利益計上(コア業務純益)を高めることが最大の関心事です。当局の説明担当者が将来生き残りできるのは利益を上げ続けられる金融機関と、多分その前に顧客本位のビジネスモデルを作り、顧客から支持される金融機関となるという前提で話されていると思いますが?しかし「コア業純」という言葉が独り歩きしているのが現状です。当局は指導において利益の話をあまりすべきでないと思います。銀行法・信金法・協金法の第1条という目的をしっかり認識させる指導に徹してほしいものです。

    利益は結果で金融機関の目的は第1条なのですから。

    金融行政の担当者にも目的と手段の取り違えをしないようにしていただきたい。