融資研究会に出席して

第一勧業信用組合の新田理事長の著書「よみがえる金融」は本年5月に世に出たのですが、多くの地域金融機関の人たちに共感を与えました。

本の中で紹介されている、芸者さんローンなどの“コミュニティローン”は「人とコミュニティの金融」の象徴です。

人を見て 事業を見て、フェイス・ツー・フェイスで行う小口無担保融資である“コミュニティローン”の現状について、

新田さんが、10月29日の「融資に関する検査・監督実務についての研究会 (第4回)」(@金融庁) でのプレゼンテーションの中で説明されました。

https://www.fsa.go.jp/singi/yuusiken
/siryou/20181029/01-2.pdf

驚くことに、

現在のところ、実行件数438件のうち、デフォルトはゼロ。

人を見て 事業を見ればローリスク、コスト+α のリターンも確保できるということですね。

さて、

金融庁の融資研究会ですが、これはポスト金融検査マニュアルの資産査定、引当償却などに関わるので注目度が高く、メディアなど多くの傍聴者で会場が埋まります。

第4回では「日米の貸出検査実務の比較」について、金融庁から説明がありました。

https://www.fsa.go.jp/singi/yuusiken
/siryou/20181029/03.pdf

第3回までの議論で、「フォワードルッキング」と「画一的ではない融資特性を尊重した裁量」がキーワードになっているのですが、米国の考え方には示唆するところが大きいと感じました。

すなわち、

米国当局の検査では、「金融機関が与信の質を正確に把握しているか」について、検査の半分を費やすとのこと。

また、米国では、一般貸倒引当の認定要因の何と 8割が、地域経済の変化や融資ポリシーの変化などの定性的ファクターであるとのこと。

米国の検査手法には、ポスト検査マニュアル時代のあるべき姿が映し出されているように思います。

ただ、

「与信の質の正確な把握」は、地域特性や地域産業の将来性などを踏まえた (フォワードルッキング) 経営計画や融資方針があるからこそできるのです。

新田さんのように明確な経営方針、融資ポリシーをお持ちの地域金融機関にとっては難しいことではありませんが、多くの地域金融機関にとっては難易度が高いのではないでしょうか。

もちろん、だから反対というわけではありません。

こういうことができないのならば、地域金融機関の経営者として失格ということです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 橋本卓典 より:

    そうなのです。なんとFRBでは、一般貸倒引当(つまりは正常先と要注意先)は、 8割が定性判断なのです。ほとんど定性ということです。時流、どう考えてもおかしいと思う感性、こそが重要なのです。だからULの世界でリスクテイクができるのです。

    ところが、検査マニュアルはULの世界を抹殺しました。すべてを格付けと過去倒産実績(現在進行形には対応できない)というナンセンスな確率論でガチガチにしてしまったのです。2000年前後の緊急避難措置としては、仕方がありませんでしたが、すぐにやめるべきでした。怖いのは惰性です。レイジー、金融排除はここから始まりました。

    FRBが個別引当(コビキ)の世界に限って、ガチガチにやっている不良債権処理を、日本は正常先から破綻先まで全領域に適用して、しかも20年間も「FRBも同じ基準だ」と錯誤してきたのです。

    所詮は人間のやっていることです。過信と慢心は、最も恐るべきことです。

    惰性で検査マニュアルを続けてきたことこそ、裁量行政だったのです。

  2. 新田信行 より:

    ポリシーの無い経営などあり得ません。ポリシーが多様性を生み出すのです。

    リレバンの進化を是非皆さんと議論したいです。私設研究会を立ち上げたいです。

  3. 多胡秀人 より:

    新田さま、

    私設研究会に参加させてください。

  4. 新田信行 より:

    多胡さんありがとうございます。先ず、京都信金の増田さんの提唱された運動体に参加したいと思います。是非ご指導ください。