「品質保証」の仕組み

「ゴーン事件に学ぶ、経営につまずかない「企業統治」の仕組み作り」(1月16日)

というダイヤモンド オンラインの池尾和人先生の論考を読みました。

コーポレートガバナンスに関し、学界の方から話をうかがったり、学界の方とシンポジウムなどで議論をしたりすることがあるのですが、実際に社外取締役の仕事をしている立場からすると、教科書的で現実離れしていると感じることが少なからずあります。

例外は池尾先生であり、池尾先生の論点は常に現実に立脚したものです。

本稿も示唆に富んだ期待を裏切らない内容であり、一気に読破しました。

いくつかの箇所に蛍光ペンでラインを引いたのですが、とりわけ以下の箇所はしっかりと腹に落とすことができました。

〜 もしコーポレートガバナンスの体制に不備があっても、優秀なトップがうまく企業を経営すれば、パフォーマンスが向上することはあり得ます。リーダーが優秀であれば、むしろ下手な民主制よりも求心力の強い独裁制のほうが効率的でしょう。それゆえ、コーポレートガバナンスの整備と企業のパフォーマンスは、必ずしも連動しないケースがあります。とはいえ、経営者に立派で優秀な人が必ず就任する保証はない。会社の利益より自己の利益を追求する人や、無能な人がトップになったらマネジメントはおぼつきません。だから、適正な人が経営者になる確率を高めるための「品質保証」の仕組みとして、コーポレートガバナンスが必要となる。それが本来の意義です。(本文を引用)

池尾論文から目が離せません。


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コメント

  1. 増田寿幸 より:

    「適正な人が経営者になる確率を高めるための「品質保証」の仕組みとして、コーポレートガバナンスが必要となる。それが本来の意義です。」とは端的で小気味よい論理展開です。そこで少し論点の追加です。こうした仕組みは、しかし、株式上場企業には有効ですが、圧倒的多数派の中小同族企業の経営者品質確保には不向きなのです。ファミリー企業の社長は他人の意見になかなか耳を貸しません。これが地域金融機関の現場の悩みでもあります。しかも同じことが小規模地銀や協同組織金融機関にもあてはまります。トップが理事長や頭取になったら学ばなくなるのです。そしてそうしたトップは時代の変化について行けないのです。新聞も読んでないのでは思うことがあります。なんとか彼らに勉強を強制する仕組みが必要です。

  2. 仙吉 より:

    協同組織金融機関には総代会があります。

    しかし、取引先である総代が金融機関の経営に対して適切に意見具申できるでしょうか。

    また、耳の痛い本当の意見が経営陣まで届けられるでしょうか。

    役員は昇進昇格の延長線上にあり、自分を引き上げてくれたトップの顔色をうかがうばかりなのではないでしょうか。

    ガバナンスは仕組みだけを整えても正しく運用されなければ有効に機能しません。

    その運用は、トップ、経営陣を含めて自分たちが真摯に向き合って取り組んでいかなければなりません。

    強い信念のもとに魂を入れなければ。

  3. 橋本卓典 より:

    これは極めて重要な論点です。私の次回作の問題意識でもあり、近く発足する地域金融変革運動体でも是非、議論したいところです。

    私は、恥ずかしいことこそ敢えて口に出すべきだと思います。「トップは学習を怠っているのではないか」「我々は目先の給与水準のために見境のない行動しているのではないか」「我々は社内政治の会議をしているのではないか」というアジェンダです。

    「そんなことないぞ!」と意識し、抗弁されるならば、自然と「恥ずかしいこと」ができなくなるバイアスが働くと思うのです。

    一見、アホらしく見えるかもしれませんが、トップが会議で「自分はアホにならないように、このような学習を最近している」と自身の品質証明を半ば義務化すれば、発表に備え、意識的に学ぼうという姿勢となるでしょう。発表の場があるからこそ、モチベーションは高まるのです。

    学習の成果があったのかは、支店長会議のスピーチの熱量をみれば、一目瞭然です。

    中小企業に対しては、徹底的な探究型対話だろうと思います。

    まだまだありますが、変革運動体で是非、議論いたしましょう。