早期警戒制度の方向性

3月9日のブログ「ポスト検査マニュアルに向けて整理してみました」に登場する、

“健全性基本政策”

が、今後の金融行政の中核となることは間違いありません。

今日は「早期警戒制度」について書くことにします。

金融庁が金融機関の経営状況を監視し、収益性・信用リスク・有価証券運用リスク・流動性リスクなどの面で悪化が見られると、早い段階で是正措置を求めるために、2002年に導入したのが「早期警戒制度」です。

この早期警戒制度も、フォワード・ルッキングの視点から、“健全性基本政策”の思想のもとで見直されることが予想されます。

現行の早期警戒制度の“収益性改善措置”では、現時点の自己資本比率、コア業務ROA、OHRなどがチェックポイントですが、これらは過去から現在までのファクトであり、将来の健全性を計測するためのものではありません。

早期警戒制度の見直し案は、ほどなく公表されるものと考えられます。

将来の健全性につながる持続可能なビジネスモデル (顧客本位、顧客との共通価値の創造であることは言うまでもありません) を構築できず、結果として最低所要自己資本を下回ることが見込まれるなど、健全性の改善が求められる金融機関は、「24条の報告徴求、25条の検査、26条の業務改善命令」が発動されることを覚悟しなければなりません。

なんちゃってリレバンでお茶を濁している場合ではないのです。ビジネスモデルの再構築を真摯に進めるべきです。


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コメント

  1. 新田信行 より:

    金融行政の変革の方向性は素晴らしいと思います。

    一方で、それを受ける地域金融機関の自律性が問われます。

    金融行政から言われるからやるのでは、いつまでたっても、形式的にお茶を濁す文化は変わりません。各々の金融機関が、自らの意思で自律的に変革に取り組むことにより、始めて金融業界の多様性が生まれます。

  2. 橋本卓典 より:

    >現行の早期警戒制度の“収益性改善措置”では、現時点の自己資本比率、コア業務ROA、OHRなどがチェックポイントですが、これらは過去から現在までのファクトであり、将来の健全性を計測するためのものではありません。

    まったくおっしゃる通りです。「未来」に向き合う時、なぜテクノロジーも価値観もレギュレーションも異なる「過去」に依存したがるのか。不安から逃れたいバイアスがそうさせるのです。

    一方、早期警戒制度は、「未来」「実質」「全体」が問われます。

    その鍵は「探究型対話」です。

    「経営はバカだし、現実はなかなか変わらないけど、お互い頑張ろう!」という、傷をなめ合う対話の為の対話では勿論ありません。

    ■経営者は理念を語れるのか

    ■その理念を実現するための現実的なビジネスモデルはあるのか。実際に行動に移しているのか

    ■本部、現場の態勢整備は十分か

    ■職員まで理念とビジネスモデルの理解は共有されているのか

    まだまだありますが、一言で言えば、「生命体としての組織」が問われます。

    これに経営者が信念をもって答えることができないのであれば、それは警戒すべき事態ということです。「本当はビジネスモデルなどない『口だけ経営』じゃないのか」という疑義の下、立ち入り検査が行われるでしょう。オンサイトの検査は重大な意味があります。

    このブログをお読みの方は、危機感をもって動かれることをオススメします。

  3. 増田寿幸 より:

    橋本さんの整理は論理的で緻密ですなあ。橋本さんのファンであり、かつ、なんちゃって論敵の私としても、ケチのつけどころが見えません。ただし、一点だけ、発見しました。最後の2行です。理念を語り、モデルと組織風土を整備し、関係者の共感を得る経営には、「危機感」では不十分というか不適切で、「わくわく感」こそが必須と考えまする。困難なことに立ち向かうにあたり、楽しめなくては、続かんのですわ。

  4. 柳 秀樹 より:

    増田会長のご意見は、ちっぽけな会社経営体験ではありますが、その通りだと実体験から実感しています。きっかけは、危機感です。危機感なくして何もセンシティブに感じることができません。少しでも感じられるように、ありとあらゆる手段で感触を確かめたいと経営者は思うはずです。そのために、お手紙もお送りし、直接お目にかかります、お客様の反応が気になります。味見をしなければわからないからです。しかし一方、危機感はトリガーですが、継続的な原動力には少し足りません。それは、行動への起爆剤かもしれませんが、一瞬でしか効能しないのだと思います。長く継続し、課題を一喜一憂し、一喜一憂はすべきでないと理解し、次に進み続ける為には、いかに状況を楽しむか。いつだって課題、問題はあるものだと、完璧には解決できないのだと悟り、つねに部分解決しつつ全体解決に少しでも近づこうとする意欲、これこそを楽しみに変換することで、永続的に取り組める動機?要因?なんだか結論付けられませんが、実体験として存在しています。

  5. 橋本卓典 より:

    その通りですね。危機感は「きっかけ」。ワクワク感、互酬の幸せは「きっかけ」でもありますが、さらに「駆動力」になりうる。おっしゃる通りです。人間は実に面白い生き物です。

    今日は、山梨におりました。私も手段が目的化していることに気づいた事がありました。反省するとともに、気づかせていただいた新潟県信用保証協会の方には感謝しております。