金融庁と対話ができますか?

金融庁が3日に発表した中小地域金融機関向け監督指針の一部改正案 (早期警戒制度の見直し) を受けて、当事者である金融機関サイドはどのようなアクションを起こすことになるのでしょうか? (思考停止ですくんでいるだけの金融機関はお読みにならなくて結構です)

金融庁の趣旨は、金融機関の足元の健全性から、将来の収益性などの持続可能性に監視の軸足を移すという点にあり、このことはここ数年の金融行政でも明確に示されています。

金融庁はすでにデータ分析作業を進めているものと思われます。

~金融庁は、各行のおおむね5年以内の収益や金利上昇などストレス事象を想定した自己資本比率を定期的に試算。問題がありそうな地銀を抽出し、改善策を聞き取る。本来の収益力を示す「コア業務純益」が継続的に赤字になったり、自己資本比率が4%を下回ったりすることが見込まれれば、立ち入り検査や業務改善命令に踏み切る。(4月3日、時事ドットコムニュース)

厳しい業況の地域金融機関は、想定される金融庁の分析 (画一的であることは否めない) とは異なる、自らが描く”将来の健全性の姿“を、今後の戦略、戦術、具体的な施策によって示すことで、金融庁の懸念を取り除かねばなりません。

このような金融庁の懸念を払拭させるための論理的な対話能力がない限り、立ち入り検査や業務改善命令となることは避けられないでしょう。

 

 


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 高見守久 より:

    東京都中野区に本店が所在する信用金庫が、昨年11月から投資用アパート・マンションローンに関わることで金融庁が立入検査されている最中に、指定暴力団関連の企業に融資を繰り返し行っていたことや、常勤の理事が暴力団関係者に対して信金名義のクレジットカードを使用して飲食接待を行っていたとの報道がありました。金融庁は体制を組み直して、週明けの4月8日(月)から改めて立入検査されるとのこと。このことは、警察とも情報を共有していることから、一大不祥事件となるものと思われます。先日パブコメ募集された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を熟読しました。当局からの3段階を経たアプローチについては、私の観点から非常に甘いと言えます。何故なら、当局が知り得た段階では、症状が深く進行しており間に合わないと思います。それより、金融庁や財務局が早い段階で総力を挙げて、当該金融機関に立入検査したうえで徹底的に膿を出したほうが得策ではないかと考えますし、経営陣という定義も不明確である旨早々にパブリックコメントを提出しました。金融検査マニュアルが4月以降廃止と言われますが、融資に関する検査・監督実務に係るディスカッションペーパーのパブコメ募集が未だに公表されていません。今回の信金や静岡県の地銀が不祥事案は、基本的に金融機関では絶対にあってはならないことが発覚されており、これは私の持論ですが、金融検査マニュアル廃止を延期するか、当局が認定した金融機関だけが金融検査マニュアル廃止の恩恵を受けるとしたほうが公正ではないでしょうか。また、内部監査部門を強化するように言われていますが、金融機関内部で、家族を養っている職員が経営陣への監査は非常に勇気が必要です。そのあたりを金融審議会において議論していただくと有難いです。

  2. 橋本卓典 より:

    高見さんのおっしゃる内容は、もっともな点があります。論点を整理をすると、以下の通りとなります。

    ★「早期警戒制度」は金融機関の健全性を問う制度です。ご指摘の通り、3段アプローチとは、

    ①「過去」の計測データに基づくふるい分け

    ②経営との探究型対話

    ③立ち入り検査

    となっています。

    その上で考えますと、当該信金は①の「計測できる表面的な数値」は「悪くない」はずです。となると高見さんのおっしゃるように「ふるいに引っかからない」わけですから、金融庁の知らぬ間に症状は進行してしまい②、③には至りません。まったくごもっともです。先般のスルガ銀行も「計測できる業績」は絶好調でした。こうした不祥事ケースには①、②、③アプローチは通用しないと言えます。

    故に、第二地銀などの持続可能な収益性が厳しくなっていると思われる地域金融機関を念頭に置いた制度だと考えますが、これでさえも「業績を粉飾しているような場合」には①、②、③アプローチは必ずしも通用しません。

    故に、金融庁は中小企業ヒアリング・アンケートや地域生産性向上支援チーム、ネットプロモータースコアを導入し、地域の定性的情報を集めています。実際、顧客の評価はその金融機関の財務というよりも経営・コンプライアンスの健全性と相関しています。さらに公表していませんが、金融庁は内部告発情報も従来よりも重視しているようです。これはこれでこれまで「計測してこなかった世界」に踏み込んでいるので評価できると思います。

    加えて、私が「計測できない世界」で訴えているのは、スルガ銀行や当該信金の場合は、投資銀行並に極めて水準が高かったり、業績次第ではたたき落とされるような、極端な人事、給与、報酬体系をしいている特徴があります。人間の心の極端なすさみ、猜疑心、嫉妬心、虚栄心、焦燥感などが暴走する恐れのある組織には、①、②、③にとらわれずに踏み込んで検査に入るべきだと私も考えます。簡単に言えば、人間の良心に照らして「著しく妥当性を欠いているのでは?」と疑われるケースです。

    他方、むずかしいのは行政の裁量です。現在の金融庁は旧大蔵省の裁量行政とは決別して誕生しました。「妥当性を欠いている」をルールで判定しないのであれば、やはり裁量の疑いが拭いきれません。よって、多胡さんのような外部の有識者を始め、我々が「妥当性に適う」のか、「何が妥当性を欠いているのか」を声を上げて議論することが重要だろうと思われます。議論の「見える化」によって、外部の声を金融行政に反映させることでバランス(金融行政の妥当性)を探究することが最良ではないかと思うのです。

    ちなみに早期警戒制度は、パブコメを募集中です。高見さんも直接意見をすることももちろんできます。ご参考になれば深甚です。

  3. 高見守久 より:

    早速の懇切丁寧な解説をしていただき、誠にありがとうございます。今回のパブコメ募集につきましては、既に意見を提出しています。今後ともよろしくお願いいたします。

  4. 増田寿幸 より:

    私は行政指針だけで問題が解決するはずはないと思うのですが、それを前提にして、「どうやって妥当性の有無を判断するのか」という点は重大な論点だと思います。それを「計測できない」とはせずに「何とか計測する」に持ち込む努力です。例えば、問題の銀行にしろ信金にしろ、中途退職率は十分に高かったはずですし、その推移に注目すべき動きがあったはずです。要は職場が荒れているかどうかは何かの数値で計測できるはずです。IOTの時代というのは一見ゴミのようなデータがそれなりの規模で蓄積されれば画期的な意味をおびるのでしょう。金融庁はありとあらゆるデータを自動的に収集できるセンシング技術を構築すればいいのではないですか。

  5. 橋本卓典 より:

    心の病や中途退職など、これまで計測してこなかった「デブリ」にこそ、価値がある情報が入っていることは容易に想像できます。金融庁はこうした情報を真面目に取得しなければなりませんね。それでこそ早期警戒です。