「さん付け」の威力

グーグルがチーム生産性向上という命題の中でたどり着いた概念、「心理的安全性」についての話を聞く機会がありました。

組織の中で、個の言動が他者に与える影響を強く意識せずに、自分の考えを素直に伝えることのできる環境や雰囲気と理解しました。

話を聞きながら、7月11日の日経新聞夕刊に掲載されていた、キューピー 長南社長のインタビュー記事 (上) を思い出しました。

《「価値観や働くということについて、従業員と向き合うことを忘れてはならないというのが創始者、中島董一郎の教えです」

――それを実践するには何が必要ですか。

「社是でもある『楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)』という理念を社内では徹底しています。志を同じくする人が、仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びを共にする、という意味です。私なりに理解しているのは家族経営だということです。新入社員にいつも言っているのですが、新人でも正しいことは正しい、上司でも間違っているのは間違っています。これを言えるのが楽業偕悦です。(中略) 社内では皆、役職では呼ばず、『さん』付けです。新入社員も私のことを『長南さん』と呼びます。私が入社した当時は、名刺に役職も書いてありませんでした」》

(同記事)

文中にある「さん付け」ですが、ワタシが45年前に新卒で入った銀行も「さん付け」が定着していました。名刺に役職がないほど徹底してはいませんでしたが。

その後転職をしたり、コンサルティングの仕事や社外役員をする中で、役職を付ける組織が絶対多数であり、そこでの上下のコミュニケーションを見るにつれ、自分が社会人の第一歩を踏み出した組織の風通しの良さに驚いています。

いまは役職で呼ばれることがほとんどなのですが、むずがゆく構えてしまい、「さん付け」で呼ばれるときの自然体という感じにはなりません、笑。

「さん付け」は心理的安全性の第一歩というのが実感です。


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コメント

  1. 新田信行 より:

    当組も、さん付けに変えました。当組は役員の個室も廃止し、全員が大部屋にいます。私の机の上の名札は、[新田さん]です。組織文化を変えるのは、一朝一夕には出来ませんが、あらゆるところで、経営の不退転の意思を示してまいります。

  2. 橋本卓典 より:

    異論はまったくございません。が、突っ込んで話をしますと、「さん付け」や「ジーンズを履く」とクリエイティブになれる、というのは、いささか「手段」から「結論」に飛躍しています。

    心理的安全こそが本質であり、その外形的事実が「さん付け」「Tシャツ&ジーンズ出勤」のはずです。

    最近聞いた笑い話です。

    ある銀行で「Tシャツ&ジーンズ出勤」の稟議書が社内を巡り、物議を醸したそうです。スーツ姿のオッサンたちが「これはいかがなものか」「シャツをズボンから出すべきか、一律ズボンにINさせるべきか。条件付き解禁とするか」と慎重にも慎重を重ねた検討があったとか(笑)心理的安全はあるのでしょうか。

    心理的安全とは、こうした勘違いを気兼ねなく口に出せる状態です。理念と実践の「逸脱」を気兼ねなく口に出せる状態です。

  3. 森脇ゆき より:

    私の〇〇さん呼びの動機や理由は単純です、組織で上司の役職名が変わると呼びにくいと思い、心理的安全かつ、退職後も繋がるであろう上司だけ「さん」でお呼びしていました。

    関係している某会では定年退職された上司の呼び方に困り「師匠」とお呼びしていることに違和感もあります・・・。ご本人はどのように思っているのか不明ですが。

    今役職につかれている皆さまが、役職定年や退職後にどのように呼ばれたいかをご想像いただき、「師匠!」と呼ばれるのがくすぐったいと思われたら、今のうちから〇〇さんのほうがよろしいかもしれません(笑

    上司が変えてくださればやりやすいです。

    組織を離れてからは、お付き合いのある皆さまご本人とお話する時は理事長でも社長でも部長でも全員の方を〇〇さん、とお呼びしています。

    人と人で繋がっている、人間というくくりで対等であるという意思表示も含まれています。

    最近「森脇先生」とお呼びいただく機会があったのですが、年長者の方が親しみを込めて呼んでくださったと感じたので、それはあだ名のようなものだと好意的に受け止めることにしました。

    本音は「先生」と呼ばれたら穴があったら入りたい気持ちになるのですが・・・。

  4. 東北の銀行員 より:

    私が出向していた組織は「さん付け」でした。そこでは自分の意見を発表したり、周囲の人間と対話を重ねながら仮説(特に斬新なアイデアなど)を導き出す作業が多かったのですが、例え役員であろうと肩書を意識せず双方が対等な立場で発言できる環境に驚きました。

    「さん付け」の他にもワールドカフェなどのダイアログ手法も積極的に導入していましたが、今にして思えば「心理的安全」を創る為の手段だったように思います。

    以前は会議などで発言する際、「非常識と思われないか」とか「空気が読めていないのではないか」というネガティブな感情を持ってしまうことがありましたが、幸いなことに今では特に気にすることなく、寧ろ人と違う意見は積極的に発言するよう心がけております。

    但しこれは「心理的安全」によるものではなく、私個人の「心境の変化」ですが(笑)。

    多胡さんはじめアネックスの方々にも「さん付け」が多いのは、やはりこの場が心理的安全に満たされているからなのでしょうね。