儲からなくてもやらねばならぬ

かつてほどではありませんが、今もって「預かり資産業務」からの収益に多くを期待するとおっしゃる地域金融機関の幹部の人にお目にかかります。

はっきり言って、ほとんどの地域金融機関の預かり資産業務は儲かっていません。

手数料収入よりもはるかに多額のコスト (アフターフォローも含め) がかかっていると思います。そして預金取引と比べ格段にリスク因子 (説明責任など) が大きく、やり方次第では顧客とのリレーションシップ・キャピタルを崩壊させ、金融機関のヒューマンアセットを破壊する可能性を秘めています。

コストはどんぶり勘定、リスクは計測できない一方で、手数料収入は実額で見える、だからこの収入額を大きくすれば儲かると考えるのは稚拙としか言いようがありません。

「あなたは預かり資産業務が嫌いだからね」とよく言われます。

銀行員時代のほとんどを債券取引やデリバティブ業務に費やし、多くの失敗をしたワタシ自身の経験からも、“パワーセールス体質の中で工夫もなく”、社会人経験の少ない若手に預かり資産業務を担わせることは納得がいきません。

嫌いなのはこの業務ではなく、「工夫もなくパワーセールス体質」のままでこの業務を行なっている地域金融機関に対し、嫌悪感を持っているのです。

個人は将来の生活設計のため資産運用から避けることはできず、金融機関として“預かり資産業務は儲からなくてもやらねばならない業務”です。

 


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コメント

  1. 東北の銀行員 より:

    いまだに保険や投信をまるで定期預金でも獲得するかの如く推進圧力をかけて販売している金融機関もあると思います。

    「貯蓄から資産形成へ」国民の資産を増やす為に資産運用は必要なものであり、金融機関が販売する投資信託等もこの取り組みに資するものです。

    それが故に金融機関には真の顧客利益追求=顧客本位の業務運営が求められるのですが、肝心の「7原則」すら軽視されている現状ではなかなか浸透しないようで結局は「顧客本位」よりも実額で見える手数料欲しさの「銀行本位」、と言ったところなのでしょうか。

    私は単純なので「全運用商品の手数料が一律だったら良いのに」などと思ってしまいますが(笑)。

    推進圧力によって顧客本位ではない商品を売らされている行職員も、実は金融機関に対し嫌悪感を持っているのかも知れません。

  2. 森脇ゆき より:

    金融機関の幹部の方にお聞きしてみたいことがあります。

    質問①

    「あなたが幹部である金融機関は、なぜ投資信託を扱うのですか?」

    質問②

    「投資信託が初めてのお客さまへ、きちんとご提案する場合の所要時間はどのくらいかご存知ですか?」

    質問③

    「投資信託は下落時に解約が増えますが、理由は何であると思いますか?」

    質問④

    「ご自分は投資信託を保有していますか?」

    以上4つの質問にどのようにお答えになるのか興味があります。

    例えば投資信託取り扱いの理由が「利益のため」「当社のため」「社員のため」と言う方がいたら、絶対嘘です。それは責任転嫁であり、職員としては迷惑な言い訳です。「幹部自身、自分の評価のため」でしかないのです。

    証拠として、お客さまも、職員も離れていくではないですか!

    目標廃止の金融機関が多くなってきたと聞きます。ここでどれだけのお客さまに投資をしっかり、ひつような時間をかけてご案内できるかが生き残れるかの分かれ道だと思います。

    *投信窓販解禁には疑問が残ります。銀行法第一条は都合よく無視して、「株主のため」という職員もいるのです。

    窓販廃止しても良いのではないかと考えることもしばしばあります。しかしその代わりが必要です。

    会社員も自営業者も確定拠出年金の制度をもっと充実させればよいのだと思います。

    もしくは・・・

    各市町村の役所が、住民のために無料のiDeCoNISA窓口を開設し、ノルマなしで私が常駐したら、未来の地方創生にすごく良いと思います(笑

  3. 橋本卓典 より:

    捨て銀2を書いていて、ずっと疑問だったのは、森脇さんがおっしゃるように「銀行窓販解禁」は顧客のためになったのかという根本的な問いです。フィデューシャリー・デューティーという概念を欠いたまま、恐らく不良債権処理で利益が減少することを「穴埋め」するために大蔵省が窓販を解禁したのではないか、とにらんでいます。ある意味で、不良債権処理問題という国難を乗り越えるために、出血多量の銀行へ、顧客の「血」が輸血されたのです。故に回転売買などには金融庁は長らく目をつぶってきました。最低限のルールベースだった訳です。顧客の利益などはどうでもいい。金融機関の健全性だけが問題視されました。顧客不本位だけでなく、このブログでも何度も議論がありましたが、「預かり資産業務」に人員が割かれ、金融仲介機能が大幅に減退しました。リテラシーある顧客の多くは銀行窓口に不信感を抱いています。不良債権問題を軽んじるつもりはありません。しかし、一体何を得て、何を失ったのかを鑑みるに、失ったものの方が遥かに大きい気がしてなりません。