目標を変えるが目標必達は崩さない

八代アソシエイツの八代さんから、昨日の旅芸人ブログで紹介した同氏の最新の論考「地域金融の心理的安全性について」を、しっかり読んでくれとお叱りの言葉をいただきました、苦笑。

改めて読み返すと、

奴隷を鎖から解き放つ (ノルマの撤廃) こともさることながら、目標がないとどうして良いか分からないというのが、多くの地域金融機関の行員職員の実態。

この現状を踏まえて、金融機関自らの収益を目標とするのではなく、顧客の本当に求めているものを目標に据えるべき、そちらの方が目標を廃止するよりも顧客本位ではないか、との主張が浮き彫りになってきました。

たしかに目標を顧客の売り上げアップ (顧客が一番求めるもの) に置いた日豊本線3行 (豊和、宮崎太陽、南日本、いずれも公的資金による資本を導入している) では、目標必達という文化のもとで、ヒューマンアセットの崩壊はなく、それなりに成果が出始めています。

 

 

 

 


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コメント

  1. 東北の銀行員 より:

    営業窓口担当者が顧客の資産形成支援をすることや、法人渉外担当者が顧客企業の本業支援をすることは当然に求められるべきであり、「顧客の利益追求≒顧客本位」ができないことは地域金融機関の行職員として怠慢だと私は思っています。

    しかし残念ながら目標が手数料収入そのものだった場合、上司は部下に対し手数料収入目標額という数字を詰めることになり、詰められた部下はその数字作りに励まざるを得ません。

    真に顧客本位を目指すのであれば「顧客本位の度合い」が計測できる業績評価指標をしっかりと考えた上でそれに対し目標値を設定すれば良いのですが、実現するには「営業推進によって収益を出す」と「顧客本位の結果として収益が出る」の違いを理解している金融機関であることが大前提です。

  2. 増田寿幸 より:

    いいですねえ、東北の銀行員さんの意見。「「顧客本位の度合い」が計測できる業績評価指標をしっかりと考え」というところポイントです。容易ではないのですが本線だと思います。今月のコンフィデンシャルレターで現時点の自分の考えをまとめて発表します。

  3. 橋本卓典 より:

     心理的安全で著名なハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は「チーム」という静的な名詞ではなく、「チーミング」という動的な動詞として捉えています。チームという存在、形態ではなく、その活動、プロセスにフォーカスしています。※恐らく、「チーム」という外形的要件にこだわると「形式・手段」が目的化する悪しき日本のお決まりパターンに嵌まるからだと思います。形式と手段が、実質という本来目的を超えてはいけません。

     ルーチンの仕事は、フォード、ウィンズロー、テイラーなどによって「フォード生産方式」として理論化され、人間の作業としては究極的に合理化、効率化されてきたと言っても良いでしょう。しかし、テクノロジーだけでなく、価値観も変化します。フォード全盛期には、一顧だにされなかったヒューマンアセットやガバナンス、コンプライアンス、CSR、SDG’s、ESGと現代の経営は複雑多岐に亘っています。複雑系に「フォード生産方式」は対応できません。ましてや「空飛ぶ自動車プロジェクト」というクリエイティブが求められる問題には、まったくの無力です。エドモンドソン教授の論旨は、複雑業務、イノベーション業務だからこそ、「チーミング」とそれを包括する学習する組織が必要だ、というものです。心理的安全はそのベースとなるものです。

     いつものように切れ味鋭い八代論考では、「管理指標を取引先に企画してもらうという大胆な方法を提案」と、いかにも心理的安全空間から発せられる私の大好物な「奇抜アイデア」を示しています。

     ここで私がこだわるのはシンプルな問いです。「それは誰が決めるのか」という問いです。米国の小売業界では「顔認証無人レジ」一辺倒ではなく、有人レジも店内案内人の携帯端末決済もあります。決済手段を決めるのは誰かという問題です。それは顧客です。我々は目を見張るテクノロジーに圧倒され、魅了されますが、すべては「顧客の痛みや煩わしさを取り除き、幸せを増幅するため」の手段です。コスト削減、人件費削減はその次に考慮される問題です。優先順位が重要です。日本ではテクノロジーは「顧客の痛みや煩わしさを取り除き、幸せを増幅する手段」ではなく、「人をどれくらい削減できるのか。どれくらいのコスト削減を実現できるのか」が最優先されています。

     外形的事実としては同じ「決済」でもまったく意味、中身、思想が違うのです。計測できない世界が余程重要だということです。

     「管理指標を取引先が企画」というならば、是非、経営会議にも入ってもらわねばなりません(これは捨て銀3に書きました)。地域金融機関は「地域の元気」という理念を掲げているはずですから、聞かれてまずいことなど何もないないはずです。

     ただし一点。ノルマという言葉に警戒します。旧ソ連が日本人抑留者に課した強制労働が語源だからです。英語ではありません。恐らく昭和時代の猛烈サラリーマンが居酒屋で談笑する「まるでノルマだな」という類いの自虐的なスラングが、日本ではいつの間にか「まっとうな経営用語」として変異してしまったのでしょう。ロシア人はビックリするのではないでしょうか。旧ソの強制収容時代をありがたがる日本人に。八代論考は、顧客の参画によって、経営理念から実践までの整合性を担保しようという話ですので、「地域から逃げることのできない鎖」には私も大賛成です。ただし、経営理念との逸脱している仕事を意味も分からずに強制的にやらされるのがノルマですから、「ノルマとは異次元に重い負荷」と認識を改めるべきです。

  4. 八代 恭一郎 より:

    有識者の皆様、いつもながら卓越したご見識に基づくご意見ありがとうございます。

    目的の形式化という地域金融機関が犯しがちなミスの他に、PDCAのA(Action)の意図的な形式化という看過できない問題があります。取引先と対等ではなく、支配していたいという潜在的欲求から意図的にAを形式化してしまいます。Aを形式化するために地域金融機関内部で共感を得られやすい「実質的にAをやったらまずいことになる理由」を見つけ出す能力は立派な地域金融機関ほど舌を巻くレベルです。やはり地域のリーダーたるもの、床柱を背にしなければ、気が済まないのでしょう。

    自行財務改善だけで構成される伝統的な業績評価に替えて、バランススコアカードの顧客の視点の考え方を導入するという総論には賛同いただけるのですが、顧客の視点の管理指標には顧客満足の結果改善する自行財務関連計数(顧客収益性指標)と顧客満足をダイレクトに評価する計数(顧客志向指標)を選択できることから、顧客収益性指標(地元貸出シェアやメイン先数など)ばかりを選択してバランススコアカード型業績評価を始めるということになってきました。結局は自行財務改善に貢献する管理指標ばかりの業績評価が継続することになります。何度となく、顧客志向指標例として、取引先事業者に付与した売上額を提示してきましたが、採用したのは公的資金を入れるなどで地域のリーダー感に自信をなくし、取引先への支配意欲が減退したような地銀数行のみです。

    けしからん言葉であるノルマも同じようなものです。「使わない」というA上の形式を整え、ガイドという言葉を使っていた都銀で6年間きつい強制労働に従事していました(笑)。ノルマ廃止としているところも、預かり資産手数料に関するノルマ廃止であり、コンサル手数料を増やすような強制労働は継続しているようです。もちろんコンサル手数料は、顧客が選ぶ”奴隷をつなぐ鎖”にはなりえません。