次は「形式から実質」

森信親前金融庁長官が打ち出した金融検査マニュアル廃止。

ポスト金融検査マニュアルの検査・監督の方向性を議論した有識者会議 (ワタシも参画しました) の報告書「検査・監督改革の方向と課題 」(2017年3月17日) では、3つの提言がなされています。

① 金融行政の究極的な目標との整合性を確保すること、

②「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へと視点を広げること、

③「最低基準の充足状況の確認」にとどまらず、「ベスト・プラクティスに向けた対話」や、「持続的な健全性を確保するための動的な監督」に検査・ 監督の重点を拡大すること、

さて、

② のうち、「過去から未来」については、早期警戒制度の見直しや融資に関する資産査定や引当に関するディスカッションペーパーが発表されるなど、着実に方向性が打ち出されています。

それに対し、「形式から実質」の方は遅々として進んでいません。

ガバナンス、コンプライアンス、リスク管理、さらに言えばリレバンそのものなど、多くの地域金融機関は形式要件を整えてお茶を濁しているように見えます。 

金融行政サイドも、地域金融機関が構築する「形式の壁」を打ち崩して、実質を見極める探究型対話はこれからです。

ただ、これらは地域金融機関が自らのこととして取り組むべきことであり、怠ればいずれ自らの存続を脅かす事態を招くのです。 

こういうことはそもそも金融庁に言われたからやることではありません。 

最近流行りの SDGs にしても、地域金融機関にとっての本質は「金融排除をするな」なのですが、プロダクトアウトを目指した商品づくりやイベントによる、やっているフリが、ほとんどです。 

こんな状態では、地域金融のサステナビリティなどとうてい望めません。

 


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コメント

  1. 橋本卓典 より:

    組織の病ですね。

    金融業界においては、金融庁から観察され、計測されることを意識すると発病します。

    かつては「担保保証しとけばいい」

    昨今は「担保保証外しとけばいい」

    どっちも、誤りです。どっちも「形式と手段」の奴隷です。

    どういう事業者に、どういう寄り添い方、支援の仕方が最適なのかを考え抜くことを放棄しています。特にミドルリスク先への対処で、顕著に分かりますね。

  2. 東北の銀行員 より:

    「ミニマムスタンダードからベストプラクティス」「形式から実質」は長い間マニュアルに縛られ続けてきた銀行員にとって最も苦手な分野です。しかしもちろん金融庁に言われてやるものでもありません。

    そもそも「実質」にマニュアルなんてある訳がないのですが形式主義であるが故に、リレバンのプリンシプルにさえ具体例が欲しいなどという発想になるのだと思います。

    形式から脱却できない組織が「形式の壁」を打ち崩す為には、組織と違う視点を持つイノベーターのような存在が必要なのではないでしょうか。

    そして幸運にも組織内にイノベーターがいた場合、組織に多様性を受け入れる度量と心理的安全が備わっていることが「実質化」への必須条件です。

  3. 森脇ゆき より:

    私の尊敬する方で「目の前のアナタを救う」という活動を17年間続けている方がいます。

    その方が、政治家に言われた言葉は

    「たった一人を救って何になるのですか?」と。

    大きな組織の経営陣は視野を広く持つことが求められるでしょうから、選ばれし人なのでしょう。

    足元が見にくければ、是非現場の人の目線を活用していただきたいです。

    目の前のお客様1人、目の前の職員1人と向き合うことが出来る経営者は、1人1人違う人間に対応するのだから、形式主義になる訳がありません。

    ちなみに、上記人物は仲間と共に、17年間で約5万人の相談を受けてきたそうです。

    「塊より始めよ」と教わりました。

  4. 森脇ゆき より:

    連投失礼いたします。

    投信販売の現場からお伝えすると、例えば、職員がお客様1人1人と向き合っていれば、取るべきリスク許容度は様々であり、偏り販売は無くなります。

    それを本部は「偏り販売しないように!」と形式主義でルールを作ってきます。

    是非ルール作りの前に、人材育成をお願いします。

    本部と現場、責任逃れ、形式主義のループが起こります。