ポスト検査マニュアルは一気通貫

9月10日に発表された、ポスト金融検査マニュアル時代の「融資に関する検査・監督の考え方と進め方」に関するディスカッションペーパーに改めて目を通しました。

昨年7月から年末にかけて開催された「融資に関する検査・監督実務についての研究会」(ワタシもメンバーとして参加しました) での議論を踏まえたものです。

金融庁は、従来のように画一的ではなく、金融機関の“個性・特性”を理解・尊重するものの、「経営理念 → 経営戦略 → 経営計画 → 融資ポリシー → 実務とコンプライアンス」の “一気通貫” となっていることが前提となります。

~「金融機関の個性・特性」とは、金融機関がどのような経営環境 (顧客特性、地域経済の特性、競争環境等) の中で何を目指しているのか(経営理念)、それをどのようなガバナンスや企業文化の下で、どのように具体的な経営戦略、 経営計画、融資方針、融資実務、リスク管理、コンプライアンス態勢、自己査定・償却・引当実務として進め、どのような融資ポートフォリオや有価証券ポートフォリオを構築し、どのようなビジネス(顧客向けサービス業務や有価証券運用を含む)からどの程度の収益を上げ、どのような財務状況となっているかの全体像をいう。~ (ディスカッションペーパー本文 5ページ)

ルールベース対応に慣れっこになった地域金融機関にとって、このプリンシプル (一気通貫の枠組み) に則った体制整備は難易度が高いかもしれません。

かつてリレーションシップバンキングの機能強化のプリンシプルを発表した際に、具体例が欲しいとの声が多く、それがチェックリスト化を招いたという苦い経験があります。

一気通貫の枠組みでの業務運営ができないのならば、経営陣は交代すべきです。

 


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 橋本卓典 より:

    森長官時代からの時代の変化をフォローしていれば、ごく自然な帰結です。慌てふためく方がどうかしています。

    米連邦準備制度理事会(FRB)もかつては5年に一度の歌舞伎検査をやっていましたが、とっくの昔にやめています。過去の財務データはほとんど重視しません。文字通り「過去のデータ」だからです。

    FRBは、将来に向けての「異変」をどう察知するかに最大限の注意を払っています。当たり前です。クレジットデリバティブ、ヘッジファンドのポジションの変化、ビジネスモデルの変調、人員の配置の変化こうしたものに異変を感じ取れないのであれば、本当の検査機能を果たしていないということです。

    この問題意識は、金融機関の与信管理にも共通しています。過去の返済能力と過去の倒産確率で未来を予想するのは、不良債権処理を進めるためには有効でした。しかしながら、変動していく経済・景気情勢とはどうしても乖離してしまいます。再生支援の判断も含め、未来に対する必要な金融機能さえ阻害してきたことは厳然とした事実です。

    もっとも普通の金融機関であれば、この程度のことは既に気づいています。問題は、具体的にどう対応するか、ということです。

    この点は多胡さんのご指摘する通り、経営理念と計画、施策、実践の一気通貫性が重要になります。この考え方は、まもなく始まる早期警戒制度にも通じる話です。過去の数字で安心するのではなく、顧客基盤、人材育成などの「未来への種まき」も含めて備えましょう。古人曰く「備えあれば憂いなし」と。

  2. 増田雅俊 より:

    まったくもって御両人のご指摘のとおりかと存じます!

    将来の不確実性と如何に向き合うかが経営者としてエンドレスの責務であり、備えあれば憂い無しはリスク管理の基本中の基本と存じます!

    できうる限りの対応をしたつもりでも、その結果は<神のみぞ知る>ですが・・・苦笑!

  3. 東北の銀行員 より:

    森前長官が「静的な規制から動的な監督へ」の講演を行ってから約3年半が経ち、金融庁自身は大きく変わりつつあるようですが未だに各金融機関の間には温度差があるように感じます。

    HCアセットマネジメント森本社長のコラム「スルメ金融からイカ金融へ(2016.12.15付)」を思い出しました。

    「企業は生きたイカのように元気に泳ぐ生き物であり、財務諸表の数値に表現される企業は過去の泳ぎの一姿態に過ぎず、死んで干からびたスルメです」

    「生きて、動いて、悩んで、苦労し、喜んでいるイカとしての顧客に対し金融機関が見ているのは年収、職業、年齢、家族構成等の一定の属性に還元されたスルメとしての顧客なのではないでしょうか」

    形式やルールに縛られ、顧客をスルメとして見てきた金融機関にとって「計測できない未来」とは正に未知の恐怖でありそこに形式的な具体例を求める心理は分からないでもないですが、残念ながらそんな都合の良いお手本はありません。

    本気で経営理念と一気通貫する業務運営を目指すのであれば、余所を頼りにせず役職員皆が知恵を出し合い喧々諤々議論したら良いのではないでしょうか。独自のRAFや理念に通じるビジネスモデルのヒントとなり得る意見も出ることだろうと思います。

    勿論この場合、組織に心理的安全(お友達クラブではない)が備わっていることが大前提なのは言うまでもありませんが。