過剰債務で苦境に陥った某企業に関する信用調査会社のレポートを読みました。
借り入れが膨らんだ背景には、ハイピッチの事業拡大とともに、M&Aの案件が持ち込まれたことがあるとの箇所で目が止まりました。
バブル時代に過剰債務で破綻した企業の再生に携わった人からしばしば聞いた話と重なったからです。
「過剰債務となった原因の中には、取引金融機関が持ち込んだ 、(引き取り手の見つからない) “事業案件や物件” の面倒を見させられたケースが少なくない。これは貸し手の優越的地位の濫用だ。」
いま流に言えば、
「取引金融機関が貸し手の立場を濫用した、ハイピッチの事業拡大のファイナンスと抱き合わせの、借り手の望まない M&A」
ということにでもなるのでしょうか。
さて、
M&A業務は、2003年3月に公表された「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を踏まえた金融庁の事務ガイドラインの改正によって、預金取扱金融機関の付随業務として明記されました。
このときの経緯は、橋本卓典さんの「捨てられる銀行」の中にも出てきます。
このガイドライン改正があるからこそ、地域金融機関は大手を振ってコンサルティング業務ができるのですが、当該箇所を記載します。
~銀行が、従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、M&Aに関する業務、事務受託業務については、取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化の観点から、固有業務と切り離してこれら業務を行う場合も「その他の付随業務」に該当する。
なお、実施にあたっては、顧客保護や法令等遵守の観点から、以下の点に ついて態勢整備が図られている必要があることに留意すること。
① 優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる行為の発生防止等法令等の厳正な遵守に向けた態勢整備が行われているか。
(以下省略)~
このガイドラインの文言からも明らかなように、M&A業務を行う場合には、優越的地位の濫用とならぬよう厳正な遵守が前提となります。
冒頭の某企業にM&A案件を持ち込んだ金融機関 (もし、そうだとしたら) は、この事務ガイドラインのことを認識しているのでしょうか。
中小小規模企業との取引での、貸し手たる金融機関の責任感と矜恃が問われるところです。
コメント
その会社の「健康診断・健康管理」は気にせず、上位からのM&A件数・手数料ノルマによって、部分最適をも超えた供給をしていまい、かえって健康を害してしまったのではないでしょうか。
「健康統合管理」「健康統合診断」をしないで、こちらが売り込みたいモノばかり持ち込むのは、一体誰の都合でしょうか。「誰の都合か」を突き詰めると、景色は整理されます。
【一粒で二度美味しい?】
M&Aではありませんが、不良債権化した不動産投資資金の回収のため、別のお取引先に、その物件を抱いていただくよう働きかけることは、日常茶飯事に行われていたように思います。
不良債権は一旦見かけ上は回収でき、現状正常先と見えているお取引先の融資が増える為。上昇意欲の強い支店長には、「一粒で2度美味しい」取り組みであったわけです。
その結果窮地に追い込まれた企業を、沢山知っています。
抜本的改善には、いち早く不動産を手放すことですが、バブル崩壊によりそれもままならず、貸して責任を行内で主張しても受け入れられず、無力な自分に腹立たしさを感じたものです。