石の上にも3年と言いますが

  多くの金融機関のWebsiteなどを見ると、頭取のメッセージが出ており、「金融仲介機能を発揮し、取引先企業のニーズに応じた融資やリレーションの提供により、企業の成長や地域の発展に貢献していく」といった方針を掲げておられます。他方で企業の声などを聞くと、メッセージ通りの行動が出来ていない金融機関も少なからずある様に見受けられます。どうすれば金融仲介の質を一層高めていけるか、今申し上げた実態把握や先般公表した「金融仲介機能のベンチマーク」等の客観的な指標も活用しつつ、金融機関との間で対話を進めていくつもりです。

  その際、銀行のトップがどのような形で具体的にリーダーシップを発揮しているか、業績評価の体系や融資審査のプロセスなどが、トップの目指す方向と整合的なものとなっているか、といった点も含めて議論を行ないたいと考えています。

  こういう話をしますと、そんなところにまで行政が口を出すのかと思われる方もおられるかもしれませんが、こういうことを考えるに至った、いくつかの事例を紹介します。

  まずは、「顧客本位の経営」とトップが言っても、手数料収入増加の厳しいノルマがあると、支店の営業は、お客様のニーズに沿っていないとわかっていても、手数料の高い商品を進めてしまうという事例。

  次に、トップが「事業を見てミドルリスクをもっと取れ」と指示を出し、支店が新しい融資先を見つけてきても、本店の融資審査の基準が従来のままであるため、事業面では有望な先でも、トラックレコードがないといったような形式的な理由で融資が行なわれないという事例。

  また「事業性をよく理解して」と指示を出しても、支店の営業職員が2~3年で転勤していては、企業からみると「ようやく自分たちの事業を銀行の担当者に理解してもらったと思ったら、転勤してしまう。」ということになっている事例。

  最後に、トップが、外には「事業性評価」といいながらも、内心は「そんなコストのかかることをやっていては、ただでさえ経営環境が厳しい中、収益が更に落ちてしまう。割があわない。」と本心では思っている事例。

  もちろん、頭取がそのように思っておられたとしても、業務改善命令などの対象になるものではありませんが、地域金融機関の中には、例えば経費の徹底した合理化を進め、経営上の余裕を生み出した上で、Relationship bankingに真剣に取り組み、実績をあげておられる実例もあります。経済が右肩上がりの時代とは異なり、人口減少が進む中、単純な量的競争で経営が成り立つ時代ではないことは十分お分かりだと思います。そうした中で、環境変化に適合した持続的なビジネスモデルを真剣に考え実践しないのは、顧客、株主、行員などのステークホルダーに対し、トップとしての責任を全うしていると言えるのでしょうか?

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2016年10月の地方銀行協会 頭取例会における金融庁長官の談話の一部です。

今年の話ではありません。

もはや驚きもしませんが、3年経っても地域銀行はほとんど変わっていません。

あえて言えば、ジョブローテーションの長期化ですが、これは金融庁自身がそのような方向性を出したことです。

金融機関自身の改革は遅々として進みません。

組織が変わることへの期待、これが間違っていたのだと、絶望的に思う日々です。

 

 

 


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コメント

  1. 橋本卓典 より:

    自由には責任が伴います。

    自己改善能力がない優越的地位のライオンが自由を唱えても、檻から出すわけにはいきません。せっかく餌を与えてくれる飼育員(顧客)を「餌だ」と、とんだ勘違いをして、噛みつくようでは、話になりません。

  2. 東北の銀行員 より:

    ここ数年で「個」のレベルには変化が見られるようになったと感じますが未だに組織的取組までは至っていないというのが現状です。

    組織が変われない要因の1つに「心理的安全性の低さ」が挙げられると思いますが、組織が「自浄作用のないお友達クラブ」にならないよう、自由に対する責任やストレッチな目標(ノルマとは全く別物です)を付加しないと無意味なものになります。

  3. 森脇ゆき より:

    時々私も絶望を感じ、関わりたくなくなることもあります。

    今ちょうどお客様を通じて良くない金融機関対応をしており、絶望を感じているのですが、捨て銀1に紹介されている多胡さんの活動を思えば、「あきらめない」と思い直します。

    広い金融界で考えると絶望ですし、私が出来ることは無いと思うのですが、現場を担う担当者一人、目の前の一人と接すると希望があります。

    目の前の一人に科学反応を起こす。その一人が、さらに一人に化学反応を起こします。

    現場の一人の力を信じて活動します。