どうしたら相談相手なれるか

米国では中小小規模企業は一つの金融機関としか取引をしない、いわゆる一行取引がほとんどなのですが、日本では中小のみならず零細事業者であっても複数の金融機関から借り入れています。そしてこの取引金融機関の数は最近、増加傾向にあるように感じます。

でも数が増えても、ぶら下がりの金融機関だけで、企業の業況が厳しくなった時に支えてくれる金融機関が増えたわけではありません。逃げない金融機関は減っているかもしれない。

かつて地方銀行X (地域トップシェアです) が地元で一行取引を進めようと試みたことがあります。

X銀行は地元取引先企業の経営改善/事業再生に非常に熱心で、「どうせ業況悪化によりメイン寄せされるのだから、平時においても、ぶら下がっているだけの金融機関 (悪くなったら逃げる) にはお引き取りいただこう」と企業サイドに持ちかけたのですが、上手くいきませんでした。

「趣旨はわかるし、X銀行の当社を支えてくれるスタンスは評価している。ただこのスタンスが将来も継続されるかどうか確信が持てない。経営トップが変わって方針転換などということはないのか?」

企業側の判断は間違っていませんでした。

X銀行はトップが変わり、新しい経営者は「質から量へ」の方針転換を図った (ワタシには世の中の流れに逆行しているとしか思えず) ため、地元企業は X銀行の面倒見の良さが希薄化したように感じたものと思います。

金融機関と中小企業の信頼関係の構築は難しく、それを維持し続けていくことはさらに難易度が高いものと思います。

根底にあるものは「企業の業績悪化→ 融資回収」という長年にわたる金融機関の対応です。「業績悪化→ 融資回収」という恐怖があるから粉飾に手を染めるのです。

この数年、「業績悪化→ (資金繰り支援を含む) 経営改善支援」を“組織的継続的”(単発ではなく) に取り組む地域金融機関も出てきているのですが、まだまだ少数派です。

これでは地域金融機関は「相談相手ではなく交渉相手」(→ 金融庁の企業ヒアリングで出てきた有名なフレーズです) と揶揄されても、反論の余地なしです。

「企業の業績悪化→ (資金繰り支援を含む) 経営改善支援」が、地域金融機関の行動として当たり前にならない限り、両者の信頼関係が確固たるものとはなりません。

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コメント

  1. 長野の銀行員 より:

    業績悪化→融資回収を防ぐために→粉飾。
    企業様も粉飾なんかしたくないはずです。
    粉飾もゾンビ企業も金融機関が原因であることに間違いありません。

    お客さまにうまく伝わっているかわかりませんが、ぼくどんな業種も「ご商売」と考えます。ご商売っていうと、良い時も悪い時もあります。良い時の山と悪い時の谷が繰り返され事業は継続していく。
    その山と谷の振り幅をいかに圧縮するか、そのお手伝いをぼくらは出来ているのかを考えています。しかも組織的な継続性が無ければ、お客さまには伝わるはずがありません。
    まずはお客さまに「なんちゃって」は通用しなくなっていることを金融機関は認識しなければないと考えます。

  2. 東北の銀行員 より:

    企業の粉飾決算や突然死(厭な言葉ですが)を防止する為に、銀行と顧客企業との間に「心理的安全性」を構築することが非常に有効だと思うのですが、例えば銀行に対して企業が社内の都合の悪いことを包み隠さず全てさらけ出せるかと言えば、決してそうではないと思います(理由は多くの方々ご想像の通りです)。

    長野の銀行員さんも仰っているように、この点については企業ではなく銀行の方に問題があるように感じます。

    この問題を解決する為には、銀行が顧客企業に対し「ウチは絶対に逃げません。困った時は必ずあらゆる手立てを講じてお助けします。」とコミットすることが必要であり、それを「なんちゃって」ではなく「真の顧客本位」に基づく経営改善と本業支援により体現して見せることだと思うのですが、残念ながら私の知る限り今のところは、属人的な事例しか見たことがありません。

  3. 橋本卓典 より:

    >これでは地域金融機関は「相談相手ではなく交渉相手」(→ 金融庁の企業ヒアリングで出てきた有名なフレーズです) と揶揄されても、反論の余地なしです。
    「企業の業績悪化→ (資金繰り支援を含む) 経営改善支援」が、地域金融機関の行動として当たり前にならない限り、両者の信頼関係が確固たるものとはなりません。

     究極的には「何のために」というインセンティブの問題に辿り着きます。突き詰めていくと、「利益相反の恐れ」を極力遮断することが経営に求められます。米国でIFAが極めて信頼されるは、顧客からフィーを頂戴しているから決して裏切れないようなメカニズムになっているからです。販売会社は調剤薬局みたいなもので、あらゆる薬はありますが、薬剤師は処方する薬を選びません。

     これを地域金融に落とし込んで考えると、いくつか利益相反を遮断、或いは抑制する手は考えられます。まだ他にもあると思います。
    ①顧客の評価を業績評価に反映させる。或いは、収益最優先業績評価を改める
    ②脱ノルマ&顧客へのお役立ちサービスでも収益化できる経営モデルの考案

    ①、②も難しいというなら、単なる商品陳列の調剤薬局になっていただくしかありません。余計なことは一切せずに、できるだけ自動化し、ネット取引だけに身を引いて、究極のトランザクションだけに特化するべきです。非常に投資効率の良い上場企業になれると思います。株主に高く評価されますし、地域のお客様からも余計なオススメ営業をしてこない、利便性の高い金融機関として評価されると思います。