🚩これにて一件落着ではない

まずは銀行法第1条から。

銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

言うまでもありませんが、地域金融機関は自らの「健全性」(縦軸)と「国民経済(地域金融機関であれば地域経済)の健全な発展に資する」(横軸)の二兎を追う経営が求められます。

横軸は「金融仲介の円滑化」であり、その面的展開ともいえる「地域活性化、地方創生」につながるものです。

昨今、金融行政は、「地域金融機関が『横軸あっての縦軸』というバランス経営を行なっているか」という視点で行われていることは周知の通りです。

5月に入り、無利子無担保のいわゆるゼロゼロ融資(全額保証、貸し手はノーリスク)が急増しています。

コロナ禍においても鈍かった地域金融機関がノーリスク商品が出るや別人のように動いています。

ゼロゼロ融資などが増えることで中小小規模事業者の財務基盤は“一応”安定し、横軸を達成したように見えます。また、ゼロゼロ融資はノーリスクですから縦軸も満たされます。これにて一件落着なのでしょうか。

さて、

ワタシはゼロゼロ融資などをやることで一丁上がりと思っている地域金融機関が多いことに強い違和感を感じています。

何度もこのブログで書いていますが、オカネを貸すことによる中小零細事業者の財務基盤の安定化には止血効果以上のものはなく、ウイズコロナ・アフターコロナ(WCAC)の当該事業者の事業そのものをともに考えていくことが不可欠です。これがないと地域事業者の廃業は止まりません。(それじゃなくても借入を増やすことに躊躇する多くの事業者が存在することも事実ですから)

そもそも地域金融機関には地域屈指の人材、情報、ネットワークがあり、これを地域のためにフル活用するというのは、2003年のリレバン機能強化の議論以来の命題でした。

まさにこれを実践することこそがコロナ禍で求められているのです。

さらに言えば、ゼロゼロ融資はかつての全額保証の危機対応の保証融資と異なり、金利は高くありません。リスクは国が取っているわけですから「国債の利回りプラス金融機関の取り扱い手数料」というのが妥当な水準です。

ゼロゼロ融資をいくら積み上げても、それだけでは金融機関の収益に貢献することはなく、金融機関の収益機会はWCACの局面で顧客のニーズに応えていく中であぶり出されるものだと思っています。端的な例でいえば、今の段階で事業面での相談に親身に乗った金融機関にはWCACでの増加運転資金や設備投資資金などの引合が優先的にくることは間違いありません。

このように考えるとコロナ禍での「横軸-縦軸」の問題はまだまだ道半ばと言わざるを得ません。

地域金融機関にしても金融行政サイドにしても、この現実をしっかりと認識しなければならないと思います。

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コメント

  1. 橋本卓典 より:

    多くの地銀のコロナ案件処理は、最速です。なぜならば2択だから。
    ①コロナ前に「リスケがない」事業者には→「公庫に行きなさい」
    ②コロナ前に「リスケがある」事業者には→「保証協会に行きなさい」

    ③「プロパー融資ってあると聞いたんですけど」→「ちょっと何言っているか分からないんですけど」(サンドウィッチマン富澤)とボケで、返されるのがオチです。

    金融庁が①、②をもって「地銀はちゃんとやっている」なんて勘違いはしていないと思います。途上与信管理は、他の誰でもない、民間金融機関がやるしかないのです。メインバンクとは途上与信管理をする金融機関のことを指します。ボケをかます貸出シェア首位の銀行ではありません。

  2. 八代恭一郎 より:

    収益向上が縦軸、バンカーとしてリスクをとる技術、またはビジネスコンサルタントとして心底取引先に喜んでもらえるソリューションを提供する技術の向上(短く言えばビジネスモデル改革)が横軸であるとすれば、コロナ禍で横軸と縦軸がすっかり混乱しつつあるように思えます。
    ゼロゼロ融資であってもなけなしの収益は稼げるものの、上記2つの技術は、窮地に陥った取引先の資金繰りを公共のふんどしを使って改善するだけで、救済のスピードだけが求められる中、よほど意識しなければ技術を向上するチャンスすらありません。
    そうなると、支援先数や資金繰り支援額という業容計数の増加だけで、中途半端な縦軸方向への垂直的な移動だけに終わってしまいます。資金繰りが悪化したからくりは、サプライチェーンのどこかでインバウンド顧客が減ったり、工場稼働停止や休業や時短営業が実施されたからだけではありません。そこを見抜くビジネスコンサルタントとしての技術が不足すると、中途半端な縦軸移動でしかない資金繰り支援を、都合良く横軸上の水平移動としてしまうのでしょう。