X社長へのメッセージ

「金融機関は私たちのどこを見ているんでしょうか?」

週末の某リモート懇談会で、企業経営者Xさんから聞かれました。Xさんはグローバルな視点を持ち、地域社会の中での企業のあり方に関しても確固たる考えをお持ちです。

「一言でいえば、貸したお金がちゃんと返済されるかどうかを見ていますね」と答えたのですが、十分な説明時間がなかったので、改めて下記の追加メッセージを送りました。

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(1)「貸したお金がどのように使われるのか」、お金が活用されて事業者の営業キャッシュフローが増加するなどして、企業価値が上がることは金融機関として一番嬉しいことです。これは企業のどのようなライフステージ(創業期、業況悪化からの改善/再生局面も含め)においても不変です。そのためには表面財務だけではなく、事業の中身を理解し、社長の思いや熱意を共有することが必須です。これが基本ですが、そういうことを十分に認識した上で、事業者のためを思いあえて融資をお断りすることもあります(「貸さぬも親切」です)。

(2)貸したお金を「活きたお金」とするために、地域における屈指の人材、情報、ネットワークを持つ金融機関は、それを駆使することで(1)の流れをレベルアップします。(本業支援です。販路拡大支援はその典型)こうなると事業者の事業はもはや他人事ではなくなり、顧客との「共通価値の創造」というステージに入ります。

(3)事業者の企業価値向上は営業キャッシュフローの増大だけではありません。経営管理手法の高度化、企業風土の変革、人の問題(採用、労務管理など)、さらにはSDGsの視点など、金融機関が自らの持つネットワークを駆使して事業者に情報提供することも事業者の企業価値向上につながります。

上記(1)(2)(3)を【属人的】ではなく、【組織的継続的】に行うこと(つまり支店長や担当者が代わったら対応が変わるというのはダメです)が「真のリレーションシップバンキング」です。こういうリレバンによって「貸したお金がきちんと返済されるか」が本来の事業者を見るポイントなのですが、残念ながら組織的継続的なリレバンを行なっている地域金融機関は(日経新聞にも多胡のコメントが取り上げられましたが)“1割に満たない“ という惨状です。

つまり、多くの地域金融機関は(1)についていえば事業内容に興味もなく、社長の思いや熱意を受け止める余裕もなく、とにかく借りてもらう(それが成績になる)、貸しっぱなしであとはお金が返ってくるかどうかしか考えていません。金利や元本の返済が滞れば、経営改善支援を行うのではなく、取り立て回収モードに入ります。

事業内容を見ることなく、返済を確実にするための担保や保証に過度に依存しがちです。それどころか担保がなければ貸さないという質屋金融のようなことが今もって横行しています。

(2)(3)となると組織定継続的な対応を行っている地域金融機関は数えるほどしかありません。レイジーバンクが大多数なのです。

さて、コロナ禍は地域金融機関の真贋をえぐり出しています。

現在、中小小規模事業者、個人事業主の経営者の年齢は70歳を越えているといわれています。追加の借金に躊躇するのは当然です。

この流れでは廃業が加速し、地域金融機関としては顧客基盤の崩壊(金融機関の収益に直撃)の危機に直面しているのですが、その認識がどこまであるのやら。

ノーリスクの全額保証の制度融資の売り込みにうつつを抜かしているだけの金融機関が多いのに愕然としています。(国や地方公共団体が負担してくれるので返済リスクのない)お金を貸すことで一丁あがりと思っているのはレイジーバンクそのものです。

「社長、このお金が今後の事業展開のために役に立ち、返済できるように一緒に考えますから頑張りましょう」

こういう姿勢でコロナ対応の融資を行なっている金融機関はどれだけあるでしょうか。

本来は事業者のウイズコロナ・ポストコロナの事業展開の相談に乗り、貸した資金が「活きたお金」になるよう上記の(1)(2)(3)を駆使したリレーションシップバンキングが求められているのですが、腹立たしいことにそうではありません。

企業経営者はレイジーバンクと真のリレバン金融機関との違いを見極める眼力が求められます。

企業の生き残りのため、これは必須です。

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コメント

  1. Hさん より:

    最近よく耳にする「デジタルバンク」という言葉が指す一つの形態として、「AIの利用により担保・保証には依存せす、中小事業者に対して完全非対面で融資」。

    今後AIがどれだけ『事業内容に興味を持ち、社長の思いや熱意を受け止める』までに進歩するのか判りませんが、少なくとも今のところは担保・保証に依存しないものの、『とにかく借りてもらう、貸しっぱなしであとはお金が返ってくるかどうかしか考えていない』シロモノとしか思えない。(徹底した自動化による省コストとボリューム追求により低い貸出利息を補うようなビジネスモデルだと、まぁこうなりますよね)

    (何やらよく解らないがとりあえず)明るい未来を感じさせる「デジタルバンク」が、「真のリレーションシップバンキング」と背反することなく完全に同じベクトルを向くような日は果たして来るのやら。