🚩普通の資本主義ではなかった

「日本で賃金が停滞しているのは、新自由主義の下で株主に行き過ぎた分配がなされているからではない。資本主義的な労働市場とは違った形で賃金が決定されたり、伝統的な家族像にフィットするような低所得の配偶者を助けようという政策があったり、労働者が能力や貢献に応じた賃金を要求しにくい文化だったりと、資本主義が十分に浸透していないからである。」

本日の日経・経済教室~志すべきは「普通の資本主義」 (星岳雄・東京大学教授)の中の一節です。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220728&ng=DGKKZO62937640X20C22A7KE8000

学生の頃から、かれこれ半世紀にわたり、経済教室には目を通しているのですが、重いテーマでありながらスラスラと頭に入っていくような論文は多くありません。

途中でやめて次のページへ、というのが多いのですが、本稿は違いました。

すっ飛ばした方にはご一読をオススメします。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. ランスロ より:

    日本にはまだまだ古い価値観に基づく慣習・習慣が残っており、それらに基づく部分社会的な領域化された集団がタコツボ的に存在してそれがひしめき合っている(例えば企業の正社員集団)。もう私は、それらが共同体であるとは敢えて言いませんが(最早その名に値しないと思うので)。

    そしてその間に、それから漏れたアトム的な個が散在している。

    というのが私の日本社会の見立てです。

    この論文の日本社会観も、ほぼそれと一致しているかな、と感じます。人間集団内の存在が正社員で、それから漏れた人達が非正規と言われる人達です。

    で、基本的に前者は前近代的な家産的官僚とも言うべき存在で、例えば江戸期の藩に当たると思います。翻って、非正規は寧ろ近代合理主義が前提としている存在に近い。

    そして経済学は寧ろ近代合理主義を前提にしているので、それらを前提にした政策は効果が無いのは頷けると思います。

    ただ一方で、資本主義それ自体も完全に合理性に基づいて機能している訳ではなく、その非合理性は美人競争的に貨幣や財を動かしている。それらを前提にしないで、貨幣数量説的に動かしても、これまた機能しない、それを指摘したのがケインズだというのが、私の整理です。

  2. 長川康一 より:

    バブル崩壊後の2000年ごろ、機械部品製造業の社長が「うちの製品の原価計算、取引先が示すんだよ。ゴルフなんぞやってると余裕あるとみて大変になる。そして人件費は固定費でなく変動費というんだよ。給料なんて上げられないよ。時が時だから従業員もどうにか給料もらえればと理解してくれてるんだろうね」。派遣法が改正され製造業にも派遣が緩和された頃です。そして同社は頑張って仕事続けましたが、取引先は更に人件費の安い海外に下請けを任せたことで、同社は整理廃業しました。借金多くなかったことと保険等あり従業員に退職金を払ってきれいに辞めました。日本の多くの中小零細企業の姿です。しかし国内受け皿をなくしたことは日本経済の大きな痛手です。

  3. トニーシングル より:

    パート(非正規とnearly equal)とフルタイム(正規)の賃金について賃金水準の格差を問題視せずに、前者の上昇率が後者を上回っているとして、働きやすい勤務形態をもたらす改革だと強弁する竹中の新自由主義路線を擁護した考察となっています。
    どうみても日本の直面してきた経済停滞や子供の貧困は、譲ったとしてもその多くは新自由主義のもたらした負の結果でしょう。
    宇沢弘文ならこんな主張は問題外と唾棄するでしょう。
    東大教授ですら劣化していると思わざるを得ません。

    日本の労働市場ないし広くは資本主義が経済学の教科書的モデルとかけ離れていると問題視していますが、その教科書モデルとは英米流のものでしょう。
    ・消費者は合理的に行動する。
    たとえば包紙や外箱に拘るような非合理的消費行動は見られません。
    ・労働は苦役であり、労賃はその対価である。
    有給休暇はすべて消化します。
    ・税金は享受する公的サービスを支える支出である。
    お上への上納金なんて発想はまったくありません。
    同じ資本主義国とは言え日本社会の基層には英米とは異なった日本特有の法外の法といった慣習や価値観が岩盤としてあります。
    岩盤は民営化や罰則規定のない/緩やかな法制化などで突き崩せるものではないため、それを所与のものとして問題点指摘や改善策提言がなされるべき、と思います。