迫りくる AI フィンテック。 スピード、スピード、スピード

「言うは易く、行うは難し」

地域銀行 X の頭取さんの講演での発言に関する新聞記事を見ての率直な感想です。

発言には3つのポイントがあります。

① 中小企業は内部資金があり大規模な貸出需要も出てこない、

② 取引先に対する役割を変更し、販路拡大、事業承継に転換することで他の金融機関との差別化を図る、

③ そのための事業支援の専門部署を4月に開設する予定、

① のポイントですが、内部留保がある中小企業には多くの金融機関 ( X銀行も含む ) が群がり、低金利を競い合っています。その一方で内部留保がないミドルリスク層への融資となると X銀行は消極的と推察されます。

② の販路拡大や事業承継ですが、すでにほとんどの金融機関が取り組んでおり(組織的な取り組みかどうかは別として)、何をいまさらという感じです。とくに内部留保のあるような優良企業であれば、相当以前から競合する金融機関より、この種のアプローチを当然受けていると考えるべきでしょう。遅きに失していますね。

かつて、ミドルリスク層への販路拡大などの事業支援は、金融機関の優越的地位の濫用につながりかねないとの誤解がありました。「事業支援のコンサル契約を強いることで、立場の弱い事業者から手数料を収奪するのは如何なものか。だから事業支援は正常先としかやってはいけない。」という歪んだ解釈 (間違いです) をする向きもありましたが、販路拡大が本当に必要なのはミドルリスク層です。

X銀行には果たしてミドルリスク層から逃げずに、寄り添って、財務支援、本業支援を行う覚悟があるのでしょうか。

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脱線しますが、1年半前のこの頭取さんのインタビュー (某新聞) の内容は「失笑もの?」で、当時、我々の仲間内で話題になりました。

・法人預金から従業員の給与振込へつなげて、個人顧客数を増やす、

・法人向けネットバンキングの手数料引下げを将来の融資の糸口に、

・銀行とガソリンスタンドの併存で相乗効果による収益確保、

・銀行の支店に行かずに口座を作れるスマホのアプリの提供、

これだけハズレ項目を並べられると「何をか言わんや」です。
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今回は1年半前と比べると、少しは進歩したようですが、今回の施策はいまや陳腐であり、「言うは易く行うは難し」です。

X 銀行がやろうとしている販路拡大や事業承継は、リレバン業務の核になることは間違いないのですが、どこの銀行でもイベント的、属人的にやっています。ただ、こういう単発取引ではなく、組織的継続的な活動とならねば、安定収益につながりません。

③ のような事業支援の専門部署を作るのは結構ですが、ハコモノを作ったり、外部組織と連携契約を結んだりしても、それだけでは組織的継続的運動にはなりません。

そもそもリレバン業務での収益確保はミドルリスク層でというのが正解であり、X銀行はミドルリスク層との取り組み姿勢という基本から叩き直す必要があると思います。

南日本銀行 (鹿児島)、きらやか銀行 (山形) などは、公的資金をテコにミドルリスク層を中心に組織的継続的なリレバン活動を展開しており、評価に値します。これらの銀行の取り組みは5〜10年のタームですが、その成果はまだまだ十分とは言えません。

そもそもマイナス金利やAIフィンテックが直撃するトランザクションバンキングを積み上げても、地域金融機関の「将来の健全性」は確保できません。リレバンによる安定収益は焦眉の急であり、早急な組織的継続的なビジネスモデルの確立が求められます。

X銀行の頭取さんのような間違いだらけは論外 (金融庁の「深度ある対話」の対象予備軍???) ですが、数少ない組織的継続的なリレバンの勘所をしっかり理解している金融機関の経営者であっても、今まで以上のスピード感が求められるでしょう。

スピードアップの観点から経営能力が問われます。


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