🚩法の趣旨から逸脱すれば、経営責任を問うべし

5月27日の日経朝刊の記事、

「資金注入の条件緩和~地域金融システム不安を防ぐ」

によれば、金融庁はコロナ禍により資本が脆弱になった地域金融機関が公的資金を導入しやすくする特例を設けるとのこと。

従来の早期健全化法や機能強化法で金融機関側に求めていた経営責任の明確化や収益目標などの設定を省き、返済期限も撤廃するとの記載がなされています。

ワタシは昨秋まで、機能強化法の審査を10年間担当していましたが、地域金融機関が資本増強で貸し出し余力を高め、金融排除することなく、地域事業者を支え、地域経済を活性化し、地域社会を守る(雇用など)かどうかを入念にチェックしていました。

記事の中にある、金融機能強化法の条件を緩和して、コロナ禍に苦しむ中小企業の資金繰り支援を後押しするという趣旨は分かるのですが、「特例措置では金融機関に地域再生に向けた計画を求める方針だが、実効性をどう担保するかも課題」(←同記事の文言)だと思っています。

「実効性」に関するワタシの意見は以下の通りです。

かつての「早期健全化法」では、公的資金による金融機関の資本充実の目的が金融機関の健全性を高めることにありました。

それに対し、現行の「金融機能強化法」での公的資金による資本は、金融機関の金融仲介レベルを上げるために活用されるものです。

早期健全化法では経営責任を問う立て付けになっていましたが、金融機能強化法ではそれが外されています。

このことが金融機能強化法により公的資金を導入した銀行の行動の二極化を招いたと思っています。

金融機能強化法で公的資金を入れた銀行には数値目標が課されます。中小企業向けの融資残高、収益、OHRなどです。本来、これらの数値目標は金融仲介(経営改善、事業再生の支援を含む)を行う、金融排除をしないという法の趣旨に従った業務運営の“結果として”達成すべきものであり、時間軸を置いたリレバンを粛々と進めていく以外に方法はありません。

残念ながら、

法の趣旨通り、コツコツと地元事業者に寄り添ってリレバンを行っている銀行は、経営環境の予想以上の悪化などからなかなか目標をクリアできません。(Aパターン)

その一方で、数値目標の達成にこだわり、それにより返済原資を積み上げることを重視し、金融機能法の本来の趣旨である経営改善・事業再生を含む金融仲介や金融包摂がおろそかになっている銀行がありました。数値目標達成、返済原資確保に傾斜し過ぎて、有価証券運用やデリバティブ取引で過度なリスクを取ったり、仕組み融資に手を染めたりして、含み損を抱えてしまうような事例もなかったわけではありません。(Bパターン)

繰り返しますが、

Aパターンは法の趣旨通り粛々とリレバンを進めている(コロナ禍中で地域金融機関が求められるのこの点です)ものの、数値目標が足かせになり、返済期限のプレッシャに悩んでいます。

一方、Bパターンでは数値目標重視で返済に向けてまっしぐら、でも法の趣旨からは逸脱。法の趣旨に合致しないことをやっていても、経営責任を問う法の仕立てにはなっていないことにワタシは内心忸怩たるものがあったことは否定できません。

どちらが正しい姿勢か、、、当然Aパターンです。

そう考えると数値目標や返済期限を撤廃することは、対コロナの公的資金では必要条件です。

しかしながら、「経営責任の明確化」まで外すことは得策ではありません。

Bパターンを禁じ手にするために、Bパターンが露見した場合には経営責任を問うことが不可欠だからです。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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コメント

  1. 高見 守久 より:

    多胡先生が言われるとおり、「経営責任の明確化」が必須と言えます。「数値目標」や「返済期限」は、公的資金(国民の税金)を投入されるからには、ある程度は設定すべきと考えます。モラルハザードが懸念されます。金融機能強化法の改正は急がなければなりませんが、国会など中身も十分議論されるべきと考えます。