先週は「地銀再編を後押し」(少なくともマスコミ報道では)するような2つの荒技が発表され、面食らった業界関係者が多いのではないでしょうか。
上期の決算発表で、(メディアの質問に対し)地域銀行の経営者は口を揃えて「合併・統合(資本統合)は考えていない」と応えていますが、ワタシも“救済関連を除外すれば”資本統合は起こり得ないと考えています。
業務提携・連携等により、スケールメリットによる効率化のほとんどが対応できるわけで、あえて資本を一緒にするインセンティブがないからです。
「当事者に資本統合のニーズがない」
まず、このことが押さえておかねばならない大前提です。
金融庁にせよ日銀にせよ地銀等にインセンティブを与えてくれるのであれば、それは中小小規模事業者のため、地域経済社会のためになるものでなければなりません。(いままでの地銀の合併・統合は、「顧客のため」だったとはお世辞にも言えません)
12日の日経電子版「政府・日銀、地銀再編へ異例の支援 相乗効果狙う」に沿って、改めて意見を述べることにします。
(1)金融庁の「資金交付制度」について:
~金融庁の地銀改革に向けた政策は、今回の「資金交付制度」と呼ぶ資金補助と規制緩和の2つが軸になる。金融審で議論している規制改革案では、中小企業の事業再生・承継などを支援するための出資上限の拡大や、融資などの銀行業務に加えソフトウエアの外販なども認め、収益源を広げることを検討している。ただ企業への出資やビジネスの範囲を拡大できるようになっても、小規模な地銀は経営資源を振り向ける余裕がないとの指摘も出ていた。このため統合・合併で地銀の経営基盤を強化することで、銀行が新たな分野に踏み出すことを促す。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた地域経済の底上げにつなげる狙いだ。(同記事)
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小規模地銀にとって経営基盤の強化は一丁目一番地であり、これを促すためのインセンティブ付与は容認しうるでしょう。(他業界からは「地銀だけ甘やかすんじゃないよ」との批判はありますが)
ただ、「統合・合併で地銀の経営基盤を強化」というのは違います。「取引先や地元経済社会のために活用すべき資本を統合するのではなく、業務提携・連携等で地銀の経営基盤を強化」とすべきものではないでしょうか。
(2)日銀の「当座預金優遇制度」について:
~対象は地銀と信用金庫だ。経営基盤の強化に向けた(1)収益力の向上や経費削減(2)経営統合――のいずれかを満たすことが条件になる。すべての地銀や信金が利用する場合、受け取れる金利の総額は年400億~500億円になる見込み。(中略)本業の粗利益に対する経費の割合(OHR)では19年度と比べた改善率が20年度で1%、21年度で3%、22年度で4%以上になることが目安だ。(同記事)
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経営統合が条件とありますが、当座預金優遇のために合併・統合する地域金融機関が果たしてどれだけあるでしょうか。
現実的なのは当座預金優遇を得るために経費を削減することです。地域金融機関の経費を抜本的に見直すことは待ったなしなので、これを促進しようというのは理解できます。
しかしながら、トラバン金融機関はさておき、組織的継続的リレバンに真剣に取り組んでいる地域金融機関を、削減すべき経費とそうではない経費との切り分けることなく、十把一絡げでOHRという指標だけで見るのは乱暴であり危険です。
そもそも顧客本位のビジネスモデルである組織的継続的リレバンは労働集約型であり、顧客接点のところはコストをかけてやらねばならないものです。
この点については下記の通りブログで何度も書いていますが、このような視点を入れることは必須です。
今後の展開を注視していきます。