地域金融機関に対する金融行政には2本の軸があります。
縦軸 (収益力、健全性) と横軸 (金融仲介の強化) です。
両者をいかにバランスさせるかが、地域金融機経営の基本中の基本です。
横軸の勘所は、
・顧客本位 (←行政は企業ヒアリング、アンケートなどを実施)
・属人的ではなく組織的対応、持続可能性 (→中長期的な収益につながる)
・顧客との共通価値の創造 (CSV)
・地域特性に合致させるべきもの、画一的ではない
・資本を有効に活用 (→資本が足りないなら再編も)
などですが、横軸は成果が出るまでの時間軸が必須です。
また、横軸のモニタリング手法は“対話”が中心になりますので、行政側に高度なスキルが要求されます。
一方、縦軸は過去からの数値分析が中心ですから、横軸に比べると難易度は高くありません。
重要な点は、地域金融の場合にはとくに「横軸ありき、縦軸はあくまでも結果ととらえるべき」ということです。
縦軸が強く出すぎると横軸が死滅してしまい(地域の崩壊につながりかねない)、本末転倒になりかねません。
ワタシは2003年の「リレバンの機能強化のあり方検討会議」に参加して以来、一貫してこの「横軸あってこその縦軸」という考え方が地域金融・中小企業金融のベースだと思っています。
顧客本位の業務運営、顧客との共通価値の創造、対話、心理的安全性というキーワードが示す森長官以来の横軸重視の金融行政から気づきを得て、さらには金融検査マニュアルの廃止やさまざまな規制緩和の後押しを受けて、自ら率先して変革に踏み出す地域金融機関も出てきました。こういう金融機関はコロナ禍でも微動だにしていません。
その一方で、当局の一挙手一投足を見てそれに合わせるだけの地域金融機関は、本質的なところは何も変わっていません。遺憾ながら、こちらの方が依然として多数派です。
さて、
「最近の行政サイドは縦軸に傾斜している。このたびの金融庁の組織体制を見ても、かつての検査が復活するような流れではないか」
金融庁をウオッチしているメディア筋から最近よく聞く話です。
この一年、金融庁との接点が薄くなったワタシ自身の知る由もないことですが、だとすれば行政の顔色しか見ていない地域金融機関の横軸も自ずと弱体化するでしょう。
コロナ禍の対策は横軸の強化に尽きるのですが、実態はゼロゼロ融資には血まなこ、その後は本業支援だ、コンサルだ、経営改善/事業再生支援だ、とはいうものの、多くはなんちゃっての域を出ていないのではないでしょうか。
そのための人材育成を地道にやってこなかったから、属人的な事例は作れても、組織的継続的対応はできませんね。
金融機関にとってノーリスクとなるゼロゼロ融資等の残高は膨れ上がるも、プロパー融資は減少との話も聞こえてきます。
プロパー融資が減少すれば顧客モニタリングは甘くなり、顧客接点はどんどん稀薄化します。お客様の実態がますます見えなくなって行きます。事業性評価という言葉が形骸化していきます。
廃業や倒産が急増し、顧客基盤が崩れていくリスクに直面しながら、多くの地域金融機関は顧客の事情にはお構いなしに自己の目先の収益ばかり追いかけています。超近視眼的な縦軸だけしかありません。
ワタシには行政の振り子が、いま座標軸(縦軸・横軸からなる)のどのあたりにあるのか、観測不能なのですが、
「行政の振り子が揺り戻されたから、それに合わせるのだ」との某金融機関の幹部の耳打ちに対し、
「経営しているのは行政当局じゃありませんよ、あなたでしょ」
と叱咤したところで目が覚めました。
梅雨明け、寝苦しい日が続きます。