地域金融機関にとって、日頃の接点のなかでお客さまに信頼感を持っていただき、相談相手として認めてもらうことは、一朝一夕にできることではありません。
このようなお客さまとのリレーションシップは、時間をかけて内部留保として積み上げられていくところが資本勘定に似ています。ただし、こちらは無形のものですが。
リレーションシップ・キャピタルの重要性は、京都信用金庫の増田前理事長、第一信用組合の新田前理事長、いわき信用組合の江尻理事長が以前から発信しています。
コロナ禍のような未曾有の地域存亡の危機に追い込まれたときに、短期的には赤字となることも辞さず、身を削っても地域企業や地域経済社会を支えることが地域金融機関の使命であり、その結果として資本の欠損も覚悟するぐらいの意気込みが求められます。
こういう局面で、実物資本の取り崩しを余儀なくされたとしても、地域金融機関の経営理念から外れるものではなく、地元経済社会から後ろ指を差されるものではありません。有価証券運用で大穴をあけたり、地域外のバブル融資で不良債権を作ったことによる実物資本の喪失とは明確に区分されるべきものです。
ところが、無形資本(リレーションシップ・キャピタル)の方はいくら厳しい局面に陥っても毀損させてはなりません。
実際、リレーションシップ・キャピタルがあれば、欠損した実物資本を回復させることはさほど難しくありません。バブル破裂で貸出が焦げ付いたり、株価暴落で有価証券ポートフォリオに大穴をあけたりで、資本不足に陥った地域銀行の第三者割当増資に長年取引関係にあった地元顧客が応じるという風景が、二十数年前に全国各地で見られました。リレーションシップ・キャピタルの賜物です。
それに対し、言わずもがなですが、欠落したリレーションシップ・キャピタルの修復の難易度は非常に高いと考えられます。コロナ禍において、実物資本を死守するがあまり、無形資本の方を臆面もなく崩壊させている地域金融機関が少なからずあることは由々しい問題です。
このような金融機関はガバナンス体制に大いに問題ありです。
行政はこういう視点から金融機関との深度ある対話を行うべきではないでしょうか。
コメント
リレーションシップキャピタル。この概念がどれだけ重要かを身をもって経験しました。
当時、リレーションシップキャピタルに支えられたことを知る行員たちは、今度はお客様を最大限サポートするなど地域金融機関として理想的な形に近づきつつありました。
しかし、長引く超低金利の中で銀行の収益力が厳しくなると、実際の銀行のP/L、B/Sに引っ張られて銀行の収益確保に軸足が移ってしまいリレーションシップキャピタルの概念を見失うようになりました。
金融庁のいう「銀行のサスティナブルなビジネスモデルの確立」がこれに拍車をかけるとともに、リレーションシップキャピタルに支えられた実体験を持つ行員が年とともに減っていったのが大きな要因なのかもしれません。
ただ、若い行員たちはリレーションシップキャピタルの概念を把握していないながらも、お客様とのリレーションを築きお客様の成長と地域の発展に寄与したいと思っている人はたくさんいます。
まだまだ捨てたものではないと思います。これからの地域金融機関に期待したいと思います。ハードルは高いですが・・・・・