元号が昭和から平成へと変わったころに邦銀から外資系金融機関に転職したのですが、新天地で一番驚いたのはROEに対するこだわりでした。
国際業務の比重が圧倒的に高い邦銀で、バランスシートを使わない証券業務や投資銀行(もどき)の業務に携わっていたワタシのような人間であっても、ギャップの大きさに戸惑いを覚えるものでした。
まず頭に叩きこまれたのは、ROEのターゲットレベル。米系は20%という目標を明確に掲げていましたが、ワタシの所属する欧州系銀行でも本店に行くと経営陣はROE20%を口にしていました。
彼らとのミーティングでは、「ROE」を「ROA」と「自己資本比率の逆数」に分解した議論となります。
ROE= ROA x 自己資本比率の逆数
レバレッジをかけて(負債を膨らませる)、リスクアセットの量を増やして、そこから得られるリターンによりROEを上げようにも自己資本比率の制約があります。
結局のところ、ROAをいかにあげるか。
自己資本比率8%を維持しつつROE20%を上げようとすれば、
ROAは1.6%。ざっくりいうとこんな感じです。
信用リスクやリスクモニタリングなどのコストも勘案して1.6%の利鞘を取るというのは当時としても至難の技です。
ROE旋風で、欧米銀行の貸出業務は壊滅的打撃を受け、日本の支店での融資ボリュームは激減しました。
「バランスシートを極力使うな」
バランスシートを使わない手数料ビジネスへの傾斜が進み、投資銀行業務へとシフトしていったのです。
30年以上も前の話ですが、その後日本の大手銀行も追従していきます。
そういう思考回路となっているワタシが20数年前に地銀の業務に関わるようになって思ったのは、
~上場している以上、いずれはROEの問題に直面する、
~しかし、中小小規模金融では、信用リスクに見合わない金利であっても、モニタリングコストをカバーできない労力がかかっても、それがコア業務であり、「ROE目標達成ありきのバランスシート縮小」という選択肢はない、
~結局のところ、バランスシート取引をベースに外為取引やその他手数料ビジネスを積み上げてリターンを上げていくしかない、
~地域において情報が集積されていて、ネットワークがあるのは地域金融機関であり、それを事業者に本業面で活用してもらうことで手数料の可能性が広がるのではないか、
リレバンあり方会議を踏まえ、2003年6月にコンサルティング業務が付随業務として認められましたが(当時、金融庁はここまで踏み込んだ)、あり方会議に参加したワタシには上記のような思いがありました。
手数料ビジネスの土台として、バランスシート取引で長年にわたって築かれた信頼関係を欠くことはできません。
規制緩和の後押しもあり、手数料ビジネスの可能性はどんどん広がっていますが、バランスシート取引、すなわち融資業務のところが雑になり(リスクを取らない、悪くなったら逃げる、プロダクアウトの物売りスタイルなどなど)、お客様との信頼関係が危うくなっているように見えるのは大きな懸念材料です。
いつも同じことを繰り返しますが、手数料収入のための品揃えだけではなく、土台となるバランスシート取引の再点検をお忘れなく。