金融排除先に保証付き融資を

2013年12月に「経営者保証に関するガイドライン」が公表されました。

金融庁は金融機関に対し、このガイドラインの積極的活用を要請するとともに、「過度な担保保証に依存しない」金融仲介の取組みを求めています。

その流れの中で、

「信用保証制度を使わないことが過度な担保保証に依存しないこと」

であるとの (勝手な) 解釈で、既存の信用保証協会の保証付き融資をプロパー融資に切り替える組織的運動を展開している地域金融機関が少なくありません。これらの金融機関の共通項は、プロダウトアウト症候群であり、リレバンは典型的な「なんちゃって」です。(金融機関名を出したいところですが、グッと抑えます。)

保証料を加えた支払額よりもプロパー融資の金利が低ければ、借り手にとって悪い話ではなく、金融機関にとっても保証料の一部が金利の上乗せになるのであれば、つるべ落としの貸出金利に歯止めがかかると考えるのでしょう。

この結果、

「全国信用保証協会連合会によると、18年8月末の信用保証付き融資の残高は約21兆5700億円になった。21兆円台はバブル経済時の91年度以来の低水準。この10年でみると、リーマン危機直後の09年度(35兆8500億円)のピーク比で4割も減った。」
(日本経済新聞 2018年10月19日、「中小企業向け融資、リスク恐れず〜「保証付き」バブル期以来の低水準 」)

という事態を招いています。

このような保証協会保証外しですが、自らの融資案件のプロパーへのシフトのみならず、他金融機関の保証協会保証分までもプロパーで肩代わるような話も耳に入ってきます。

こういった既存の保証付き融資の保証外しを否定するつもりはありませんし、他金融機関の保証付き融資をプロパー融資でひっくり返すのも、非難するものではありません。

どうぞご勝手におやりください、です。

しかし、所詮は既存融資での話。

あえて言うと、“金融包摂”の層に対する金融仲介での陣取りゲームに過ぎないと思います。

翻って、

こういう金融機関は、果たして“金融排除”の層への金融仲介に真摯に取り組んでいるのでしょうか?

担保ありきで事業の中身を見てもらえず、表面財務だけで信用リスクが高いと決めつけられて、貸し渋りや貸し剝がしに追い込まれる中小小規模事業者は少なくありません。

地域金融機関は、このような金融排除している事業者に対し、事業内容を理解した上で、信用リスク軽減のためにも信用保証制度を活用すべきです。

保証協会も残高の減少を嘆くのではなく、金融排除層への金融円滑化に照準を合わせて、金融機関に働きかけるべきです。

ところが、驚くことにこういう類 (たぐい) の事例の方はあまり聞こえてきません。

金融包摂層での信用保証協会の保証残高が急減する事象だけではなく、金融排除層における新規保証の兆候はあるのでしょうか? 信用保証協会に聞いてみたいものです。

本来、「過度な担保や保証に依存しない融資」の意味するところは、

“金融排除から金融包摂への流れを作り上げ、それを加速すること”

にあると思います。

本質を理解せず、冒頭のような勝手解釈での信用保証協会の保証外しで、金融庁へのアリバイ作り?をしているピントはずれの金融機関は、金融排除を放置しているレイジーバンクです。


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コメント

  1. 新田信行 より:

    東京の話ですが…。私たちはこれまで、保証協会が否決した案件を対応してまいりました。保証協会こそ金融排除していると憤っておりました。地方の保証協会の素晴らしい活動を知り、感激しています。

  2. 橋本卓典 より:

    >地域金融機関は、このような金融排除している事業者に対し、事業内容を理解した上で、信用リスク軽減のためにも信用保証制度を活用すべきです。

    →まったく同感です。保証がなくてはどうしても取引できない先に保証制度を使うのは、まったく問題ないどころか、むしろ積極的に取り組むべきです。

    私が解釈する「金融排除」は、保証協会の代位弁済を最初から前提とし(丸投げし)、途上与信管理も事業支援もしない、「完全放置」のことを指します。これたたとえ、貸し出していたとしても実質的に「排除」と同じです。

    貸さない「排除」、貸す「包摂」ではありません。見放すのが「排除」、見捨てないのが「包摂」です。丸投げは「排除」、たとえプロパーで貸しても途上与信も事業支援も皆無ならば「排除」に等しいでしょう。

    既に保証制度は法改正があり、経営改善支援が本業の1つとなりました。保証協会は保証料だけで運営している希有な政府系機関です。

    新田さんのおっしゃるように、まだ「覚醒」がまばらなのは事実ですが、それでも驚かされるほど、輝いている保証協会がいくつも出てきています。

    この辺りは、金融庁も気づいていますよ。

  3. 寺岡雅顕 より:

    次の3点を関連付けて考える必要があります。

    ・経営者保証ガイドライン

    ・短期継続融資

    ・信用保証付長期融資⇒事業性評価付短期融資

     経営者保証GLは、「GLを適用してもらえる企業を目指す」と企業者が決心したその瞬間から、新たな事業価値の獲得につながります。 尚、「債権回収で保証人から回収できるものは無視できる範囲である。管理に手間とコストがかかる。よって、経営者保証は一律徴求禁止すればよい」という声を聴きますが、「金融取引は信用と信頼が基本」ということを忘れた危険な考え方と思っています。

     経常運転資金を短期継続融資で対応することは中小企業にとって生命線を確保することにつながります。

     余談ですが、正常運転資金という言葉は好きではありません。「正常⇔異常」を連想し金融排除を誘発しかねません。経営者保証GL活用事例集No15(現在)でも意識して経常運転資金とされ、正常運転資金という表現は使われていません。

     大企業と比べてキャッシュフローの弱い中小企業は、経常運転資金を除く要償還債務を約定弁済する力が足りません。その部分を信用保証協会が保証(CFは弱いが安定してCFを獲得できる力があるということが前提)し「いわゆる短コロ」で対応することで、金融排除のほとんどは解決すると思っています。

     これも余談ですが、経常運転資金の短期継続融資まで含めて「短期継続融資は疑似資本的な役割を果たす」と言わんばかりの書物や論説を拝見しますが、厳密には誤りです。CFの弱い中小企業に経常的な運転資金を短期継続融資で対応することは基本的なことです。CFで返済できない部分、つまり「有利子負債ー経常運転資金見合いの貸出金ーCFで返済可能な長期融資」について資金を転がしてあげる(もちろんCFは弱くても安定して獲得する力があることが前提ですが)ことで疑似資本的な役割が生まれます。ここに保証協会の活路があります。

  4. 奈良義人 より:

    多胡さん、もしかして、リレバンが出来てきた現れとして、保証協会外しが起きたとも言えないでしょうか。そう期待したいところです。保証協会も、本来何のために創られたのかと考えると、金融排除先がコア顧客なのではないでしょうか。

  5. 14分の1 より:

    事業性評価を行うことで、結果、信用力の低い企業を排除し、信用収縮を起こしてしまったら何の意味もありません。事業を評価することによって、プロパーのみでは対応出来ないが支援すべき先を発掘し、信用保証を活用しながら融資をする行うべきではないでしょうか。また、他行の保証付きを自行のプロパーでひっくり返すなら、その後も当該事業者を支援する覚悟でやってほしいと思います。お客様も目先の金利だけで判断するのではなく、今後のことも考えて行動する必要があると思います。

  6. 路地裏の詩人 より:

    過度に担保保証に依存しないことが求められる前は、一部金融機関では過度な信用保証制度への盲信がありました。この事により、現場の審査能力の低下、審査機能の放棄が顕著になりました。それは、顧客をより理解する為の対話力がないがしろにされ事業性評価もままならない事態に陥っています。

    私は数年前に国の中小企業支援事業を行う責任者を務めた経験がありますが、その事業成果を引き出すために徹底した対象事業者との対話を指示し、自らもそのように行動した経験があります。保証協会は金融機関のための制度でなく、中小企業振興施策の一つです。これを有効に活用して機能させていくのは重要ですが、盲信すると末代までの副作用が 発生しているのが現実かもしれません。

  7. 八代恭一郎 より:

    金融排除とは、金融機関が行っている・行いうる行為であることを踏まえれば、協会保証は金融機関側に対して利用・活用の可否を論じられるべきではないでしょうか。

    金融機関には金融排除という行為によって、下記①~③の3種類に分けられます。

    ①金融排除という行為が可能であり、金融機関自身の生産性向上のために、金融排除を行っている金融機関

    ②金融排除という行為が可能であるが、何らかの顧客本位の考え方をもっており、金融包摂を行っている・志向している金融機関

    ③金融排除という行為が不可能で、金融包摂するしかない地域金融機関

    このブログでやり玉にあがっているのは①のタイプの地域金融機関で、協会保証は排除する取引先、包摂する取引先双方に利用されるべきではない。なぜならその地域金融機関の生産性向上だけのために、国が支援してしまうことになるから。

    ②の活用は有識者の皆様の議論から明らかなように、協会保証の利用は合理性があります。

    ③は不良債権が問題だった時代が終わり、絶滅危惧種なのか、あまり論じられることはありません。金融排除という行為は、ある程度のプレゼンスが地域金融機関になければできないものです。ある程度のプレゼンスをもった地域金融機関から排除された事業者(これは行職員採用についても同じ)が、メイン寄せではなく、プレゼンス下位寄せが主流の信用リスク管理の習慣が根付いている中、①のタイプが信用リスクが高まったことで排除した事業者が、③のメインになるのは今でもよくある話です。不良債権比率は少なくなっても、要注意先以下の先数割合などをみると、同じ金融包摂であっても、②より③に軍配があがります。

    当然③も協会保証利用の合理性はあります。

    ・・・という具合に整理しております。