金融庁がいう金融機関の「健全性」の意味は、この数年で大きく変わっています。
従来は「過去から現在」という時間軸での健全性であり、金融庁の検査監督の視点もいわば過去の“後始末”であったと考えられます。
これからは、将来にわたって健全性が維持できるかどうかというフォワードルッキングな視点がポイントになり、金融庁の監督検査も後始末から先手先手の予防型となっていくものと思われます。
金融機関としては、“資産の質”を高めていくことが必須となります。
良質な資産が持続可能な収益を生み出し、それが将来の健全性へつながることにつき異論を唱える人はいないでしょう。
さて、
「資産の質」というと、有形資産 (貸出債権や運用有価証券など) に目が向くのですが、有形資産の質を高める上で、絶対に忘れてはならないのが、ヒューマンアセット(無形資産) の質の向上です。
ヒューマンアセットの質が上がれば有形資産も良質なものとなり、地域金融機関の将来の健全性につながっていくのです。
ヒューマンアセットは大きく分けると、「経営人材」と「実働部隊の人材」になり、前者の質はガバナンスによって担保されるのだと思います。
昨今、金融庁の監督検査ではガバナンスの比重がどんどん高まっており、経営の質をしっかりと見ていこうとの意図を感じることができます。
地域金融機関の経営の質の低下が顕著になる中で、この流れをさらに加速してもらいたいものです。
それに比べると「実働部隊の人材」であるヒューマンアセットの質の向上を経営に対し、問うところは不十分のように感じます。
今週、日本経済新聞が2回にわたり地域金融機関の早期退職や苦戦する新卒採用の実態をセンセーショナルに報道しました。この点についての実態把握や可視化は、ヒューマンアセットの質を見る意味で、監督検査の中で、まずは行うべきです。
人材教育のためのコストは地域金融機関によって大きな格差があります。貧すれば鈍するたぐいの金融機関は人件費や人材教育の費用を削り、無形資産の劣化に拍車がかかっています。
そもそも人材教育の費用はコストではなく、ヒューマンアセットの質を高めるための投資と考えるべきでしょう。
それに加えて、ヒトとヒトの結合体である組織 (ハコモノの組織ではなく) の質を高めるための投資も考えねばなりません。企業風土・企業文化を変革するための投資です。
2月16日のブログで書いたように、古いOS (企業風土、企業文化) を新しいものに取り替えなければ、自己中心のプロダクトアウトから顧客本位の持続可能なビジネスモデルへの転換はできません。
コメント
共通価値で創造したプロフィットが、あるべき分配に回って、始めてサステナブルな回転が回り始めます。世界のサステナブル金融機関のなかには、収益の一部を地域に寄付することをコミットしているところもあります。職員の成長への投資も、それが自社を通じて地域に還元されるのであれば、同じ文脈で議論するべきでしょう。
【実行部隊の人材育成には時間がかかります】
依然、研修成果をすぐに見える形で求める経営層が多いように見えます。結果的に、短期の収益につながる研修を優先し、真に必要な、ファイナンスの基礎と哲学を身に着けた人材の育成が疎かになっていると感じています。
追伸です)
目に見える形で成果を求める経営者の元では、おそろしく時間がかかります。また、せっかく哲学と基礎を身に着けた職員も、理念と現実と経営の質に悩みます。
結局、離職の問題は解決しません。企業から選ばれる金融機関でなくして、学生からも選ばれるはずもありません。