融資ディスカッションペーパーの最終案を見て

9月に公表されパブリックコメントを募っていた、ディスカッションペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」の最終案が発表されました。

https://www.fsa.go.jp/news/r1/yuushidp/20191218.html

ワタシは中小小規模企業の再チャレンジのために絶対に必要な〈BOX4〉「正常な運転資金と引当の見積り」(下記) にどのような意見が出てくるか、注目していました。

~ 債権の回収可能性を引当に反映するという観点からは、破綻懸念先債権の引当の見積りにあたっても、担保・保証による回収見込額のみならず、資金繰り 等を継続的にモニタリングすることを前提として、正常な運転資金と認められる貸出金のうち回収の確実性が合理的で裏付け可能なものをも勘案して引当を見積もることが考えられる。この考え方に基づき、将来のキャッシュフローを見積もる方法を採用する場 合には上記の正常運転資金額を将来のキャッシュフロ ーに織り込んで評価すれば足りると考えられる。(抜粋、34ページ)

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金融庁によれば、20の個人及び団体より99件の意見が寄せられたようですが、〈BOX4〉に関しては2つの意見がありました。

【59】「債権の回収可能性を引当に反映するという観点からは、破綻懸念先債権の引当の見積りにあたっても、担保・保証による回収見込額のみならず、 資金繰り等を継続的にモニタリングすることを前提として、正常な運転資金と認められる貸出金のうち回収の確実性が合理的で裏付け可能なものを勘案して引当を見積もることが考えられる。」と記載されていますが、破綻懸念先は「今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者」であり、通常、融資継続は元金返済猶予の状況にあると考えられることから、正常な運転資金と認められる貸出金を回収キャッシュ・フローとする記載は適切ではないと考えます。

【60】  破綻懸念先は、今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者であり、正常な運転資金と認められる貸出金」というものはないと考えられることから、表現の修正が必要と考えます。

【金融庁の回答】

本文書に「現状の実務では、実質債務超過に陥っている貸出先については、事業継続可能な先であっても、保守的に破綻懸念先に区分した上で、再生支援等を積極的に行う方針を採用している金融機関も存在する」と記載しておりますとおり、破綻懸念先に区分される債務者であっても、「正常な運転資金と認められる貸出金」も存在し得ると考えております。

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金融庁の回答を見て安心したのですが、このようなコメントが臆面もなく出てくることに愕然としました。

そもそも破綻懸念先であっても、将来のキャッシュフローが見込めるような事業や商品サービス、工事受注などがあるはずです。

そこに資金 (正常運転資金) をつけてキャッシュフローをあげて、経営改善をすることが必要不可欠なのに、これを切って捨てるようなコメントを寄せる人(機関)がいることに呆れました。

これでは中小小規模企業の事業再生はできません。ひいては地方の再成長もできなくなるでしょう。

各金融機関の取り組みや監査法人等の対応に注視したいと思います。

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コメント

  1. 寺岡雅顕 より:

    まったく同感です。
     経常運転資金を「正常」運転資金と表現することによって「言葉の持つ罠」にはまっているかもしれませんね。「正常の反対は異常」⇒「破綻兼先以下は異常な状態」⇒「破綻懸念先以下には正常運転資金はない」と短絡的な思考に見えます。

     私は、このような誤認を避けるために経常運転資金を経常(正常)運転資金という使い方をしています。一般に正常運転資金と言う表現が流通しているため、( )書きすることで、この点の誤解がないように強調します。

     金融庁が明示的に作成したと思われる「経営者保証ガイドラインに関する活用事例集No15(公表当時はNo13)」では短期継続融資について触れられています。ここでも正常運転資金という表現は使われていません。経常運転資金に統一されています。

     その真意に気が付かず今日まで、「破綻記念先には正常運転資金はない」言い切る意見が出てくることが不思議です。

  2. 寺岡雅顕 より:

    破綻兼先⇒破綻懸念先
    失礼しました。

  3. 増田寿幸 より:

    破綻懸念先は回収専念という考えが多くの銀行で強くあるからでしょう。回収不能への恐怖感ですかな。

    • 長川康一 より:

      財務局検査において破綻懸念先以下の先に対する融資については少額でもすべて常勤会議案とするよう指導されている筈です。
      こうした実地検査での指摘に基づき定例化している事務が多々ある筈です。
      金融検査マニュアル廃止となれば、定例化した事務・手順を見直しできるのですが、個別に受けた指導を無視していいのかどうかで現場は戸惑っているのかもしれません。
      当時、経常運転資金(割引等)についても非常に厳しい言い方をされていましたから。
      今後マニュアル廃止に伴い、現状の事務・手順一つ一つどうするか考えなければなりません。
      そしてまず第一に融資戦略をどうするが最大のポイントですが。

  4. 高見守久 より:

    本日のパブコメ結果として公表されたディスカッションペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」については、冒頭、「金融機関の融資業務:経営理念→経営戦略・方針→内部管理態勢→融資方針→リスク管理→自己査定・償却・引当までの実務の一貫性」と記載されているとおり、金融機関の自主性が問われ、破綻懸念先に対する取組姿勢もしかりで説明責任がきちんと果たすことができれば、事業再生もやりやすいのではないでしょうか。