「9月期の地銀決算で貸倒引当金など与信費用が増えているのは融資先の粉飾が主たる要因であり、粉飾は複数行と取引のあるメイン不在の企業が多い。」
昨年秋の地方銀行協会会長の記者会見での発言です。
メイン不在の中小企業が増加傾向にあることは間違いありません。昨今、中小企業と金融機関との関係が希薄化し、金融機関は融資額や取引先数を増やすだけの、いわゆる「ぶら下がり融資」が横行していることは否定できません。
金融機関がメインとして取引先に対し貸し手責任をまっとうしないから、業績が悪化したらすぐに逃げるから、中小企業の中には悪いところを見せまいとして、粉飾に手を染めるところも出てくるのです。粉飾を指南する税理士、会計士や経営コンサルトも蔓延っており困ったものです。
「中国5県 粉飾が倒産増の一因に、金融機関点検急ぐ 」
本日の日本経済新聞 中国版と電子版に興味深い記事があります。
~「生きていくために、中小・零細で粉飾をしているところは少なからずある」(地銀OB)。融資を受けられないと運転資金がままならず倒産も免れない。借り入れのために決算書を粉飾するという悪循環に陥っている企業もあるようだ。 粉飾倒産が顕在化しつつある現状に、金融庁関係者も警鐘を鳴らしている。金融庁参与でNPO法人日本動産鑑定の森俊彦会長は「全国的にも同様の事例が出ている。粉飾倒産の増加は、金融機関が伴走型の融資をできていないことを物語っている」と話す。(同記事)
金融機関はプロダクトアウトの金融商品の物売りが主たる業務となり、企業に対する目利き力はガタガタになっています。
融資先のモニタリングは甘くなり伴走支援をしないから、業況悪化の予兆を察知できず、粉飾を見破れず、損失を被ることになるのです。
そうなると融資の姿勢は防衛的になり審査は厳しくなります。完全な悪循環です。
どっちもどっち。中小企業と金融機関との信頼関係は何処かに行ってしまいました。
~(森俊彦会長は) 粉飾の原因究明と併せ、「なぜ信頼関係を築けていなかったかを突き止めないと、同じことを繰り返す」と指摘する。(同記事)
森俊彦さんのコメントを重く受け止めねばなりません。
コメント
「成功した」「失敗した」ではなく、どのように成功し、どのように失敗したのかが重要です。計測できていない世界が重要です。メイン不在が粉飾の一因であるならば、どうしてメイン不在なのでしょうか。
「事業者がそう望んだから」
というのが銀行の見解でしょう。一見、もっともらしいですが、ただ、それは銀行を「相談相手ではなく交渉相手としか見なせないから」という事業者の事情もあります。では、なぜ相談相手になれなかったのでしょう。
「事業者がそう望んだから」
・・・本当に?
銀行が相談相手ではなく、交渉相手であることを選んでいるのでは?だから、相手が必要ともしていない金融商品を売り込むことをやめられないのでは?「売り手のよし」の発想から入るから、銀行業界は、時代遅れも甚だしいことになるのです。森俊彦さんが常々おっしゃる「逃げない覚悟」。事業者は銀行から感じているのでしょうか。
私の勝手な解釈ですが、顧客本位の業務運営とは、相手が個人か法人かを問わず「顧客の真の利益」を追求する取り組みであると捉えております。
そしてその真の利益とは何かを突き詰めると、結局は「生きていく上で必要な『健康・お金・知識』を豊かにすること」に行き着くと思っております(よって医療や教育も顧客本位が求められます)。
これを企業に当て嵌めると、真の利益とは「企業活動を続ける上で必要な『経営基盤(健康)・資金(お金)・事業戦略(知恵)』を豊かにすること」でありその全てをサポートできる事業者こそ、正に地域金融機関であるべきだと考えます(くれぐれも私個人の解釈です)。
しかし現実には個人が医療機関に体調の不具合を申告するように、企業が金融機関に対して社内の問題を全て話してくれるかと言えば決してそうではなく、「そもそも健康体でなければ治療を受けられない」という矛盾が未だに蔓延っているように感じます。
真に顧客本位の本業支援に徹する限り、病気(問題の発覚や粉飾など)の早期発見は可能だと思われます。
私は本業支援先に対し全力で支援することを確約しますし、全力で支援することで顧客の方から積極的に悩みや問題を相談してくれるようになり、結果として信頼関係の構築に繋がります。
そもそも「プロダクトアウト」と「顧客本位」は親和性が低いように感じられ、信頼関係が構築できない要因の1つになっている気がするのですが「なぜ信頼関係を築けていなかったか」自行のビジネスモデルが果たして顧客本位に根差したものなのか、検証してみるのも一考ではないでしょうか。