地銀再編はこう考える

年初より地域銀行の再編が立て続けに発表されています。再編風が吹いているとマスメディアは報じていますが、改めてその本質をまとめてみました。

1. 年明けからの地銀再編の背景とその問題点

周知の通り、経営統合や合併の記者会見などで再編の理由として必ず挙げられるのは「人口減少と地元経済環境の厳しさ」ですが、これは何も今年になって始まったことではありません。

今年に入って再編が続いている理由は、量的緩和からマイナス金利という金利急低下の流れの中で、プロダクトアウト (金融機関の自己本位での金融商品販売) で量を追うビジネスモデル (ほとんどの地域銀行が該当) が立ち行かなくなったことにあります。プロダクトアウトで儲かる商品がなくなったことで、残るは統合合併によるスケールメリット(単品の収益性は低くても)と効率化により乗り切るしかないとの経営判断が働いたものと推察されます。

プロダクトアウトの中でも、優良企業向けの融資や住宅ローンは、過当競争で貸出金利が急降下し、もはや収益を生み出す業務とはいえません。消費者ローンは、総量規制を展望すれば量拡大には限界があります。税制変更が追い風となり、急激に増加している賃貸アパートローンも、過熱気味でサブプライムローン的な問題に陥ることが懸念されます。さらに投資信託や保険は、マイナス金利のため商品設計に支障をきたすような状況で売れるものが払底状況、高リスク商品の販売についてはフィデューシャリー・デューティの強い牽制も働きます。このようにプロダクトアウトのビジネスモデルは四面楚歌の状況といっても過言ではありません。

その一方で、事業性評価型融資、事業再生、本業支援などのリレーションシップバンキング (これこそ金融庁のいう、顧客本位・共通価値の創造なのですが) の取組みは単発・属人的であり、イベント・箱物 (担当部署を作るだけ)・外部への取次でお茶を濁す地域金融機関がマジョリティを占めています。組織的継続的な取組みからは程遠い、やっているフリの「なんちゃってリレバン」が跳梁跋扈しています。それなりの労力と時間を与件とし、中長期的に成果となって現れる組織的継続的なリレバンを疎かにしたことで、多くの地域金融機関では現場力が壊滅的に弱体化し、顧客との信頼関係が崩壊していることは否めません。

2. 地域金融機関の統合合併の成功条件は

経営統合にして合併にしても、その本質は資本を一緒にすること (資本統合) です。資本統合以外のことは業務提携や連携ですべてできると断言しても過言ではありません。この数年で経営統合した地銀グループの発表している施策をみると業務提携や連携でできることばかりです。

とくに地域のトップ地銀は、ほぼ例外なく資本余力 (リスク資本の未使用部分) は十分です。このような地銀がわざわざ持株会社を設立し、金融機関同士の利害調整・合意形成 (ヒトとヒトのぶつかり合いの陣取り合戦で、道理や正論が通る世界ではない) などに多大な時間と機会費用を浪費する経営統合 (資本統合) を選択することはまったく理解できません。

そういう中で、昨年2月にスタートした千葉銀行-武蔵野銀行の包括業務提携(アライアンス)はスピード感があり、経営統合した地銀グループの遅々とした動きを尻目に着実に成果を上げています。

経営統合は合併への道筋と考えられますが、このような資本統合が意味をなすのは、地域銀行に資本余力がない場合です。さらに言えばなんらかの理由で資本が毀損した場合 (救済目的の統合合併) です。資本不足が原因で、地元のミドルリスク層への貸出に躊躇 (日本型金融排除) 、地元企業の事業再生を行う上での金融機関負担金 (与信費用)を捻出できない、地域のための大型投資ができない、さらに大幅な資本不足の状況ではまともな銀行業務の遂行ができないことも含め、顧客本位のビジネスモデルに支障をきたす状況に陥った地域金融機関にとって資本増強は喫緊の課題です。その中で資本統合による資本充実は有力な選択肢と考えられ、金融機能強化法での公的資金による資本強化の代替手段の位置づけになります。

つまり顧客本位のビジネスモデルを遂行できないときにこそ統合や合併が俎上に乗るのであって、統合合併には「顧客本位の持続可能なビジネスモデルの構築、地域顧客との共通価値の創造のために」という大義が不可欠です。大義ある統合合併であれば地域顧客の支持を得ることは間違いありません。

3月8日に金融庁が長崎において地銀再編についての当局の考え方を発信しました (長崎宣言)。長崎宣言の要諦はこの大義をしっかりと地元顧客に説明し、顧客の理解を得ることが大前提だということです。長崎における統合合併にしても、新潟のケースにしても、マスコミ報道によれば「統合合併により余力が出るのでそれを顧客に還元する」という説明です。資本以外であれば、提携や連携によっていくらでも「余力」をひねり出せるわけで、あえて膨大な労力も時間もかかる統合合併する必要はありません。統合合併を決断する以上は、資本余力をどのように顧客本位のビジネスモデルにつなげるかの説明がなければ地域顧客を納得させることはできません。

3. 統合合併だけではいずれ壁にぶつかる

本年、統合合併に踏み切った地域銀行のビジネスモデルはプロダクトアウト型と考えられます。地盤とする地域がそれなりの経済規模を持ち、ある程度の人口や事業者数がある場合 (たとえば首都圏、京阪神、中京地区) には、プロダクトアウトであっても当面は規模の拡大を見込むことができ、統合合併によるスケールメリットと効率化によって何とか収益を確保していけるとの判断と推察されます。

とはいえ、プロダクトアウトでの量の追求のビジネスモデルにメスを入れないのであればいずれ壁にぶつかります。統合合併で長い時間と機会コストを費やし、スケールメリット/効率化の成果が出るころには、今まで以上に金融商品の世界を席巻しているであろう、AIやフィンテックの軍門に下ることとなるでしょう。統合合併に費やした長年の努力が水の泡という悲惨な事態に直面するものと思います。

統合合併の有無にかかわらず、まずはAIやフィンテックに対する抵抗力のあるヒトによるビジネスモデル、すなわち顧客本位の持続可能なビジネスモデル、要すれば組織的継続的なリレーションシップバンキングへの大転換を優先させるべきでしょう。

4. 顧客接点と資本の統合は最後

組織的継続的なリレーションシップバンキングを遂行するに際して、大きいことは決して良いことではありません。トップや経営の意向を現場に十分に浸透させるのは大きな組織ほど難しいからです。地域金融機関には適正サイズがあると思います。スケールメリット/効率化はバックヤード部分において提携と連携で徹底的に進めるべきです。

一方、地域金融の「顧客接点」はスケールメリットとは相容れないものです。また、統合合併の対象となる複数金融機関の同一/近隣における「顧客接点」を集約しすぎると、独占/寡占の温床となりかねません。公取委から待った!がかかります。シェア調整のための貸出債権の譲渡などまったくもって論外です。顧客軽視も甚だしい。さらに「顧客接点」効率化のプロセスでは過疎地の店舗が捨てられる可能性を否定することはできません。

そして資本です。資本は地元のお客様との長年の取引で積み上げたものである以上、地元のお客様、地元経済社会のために有効活用しなければなりません。資本を統合するのであれば、地域のお客様にしっかり説明できる理由が不可欠です。資本不足で地元のためにリスクマネーが出せない、事業再生のための与信費用が出せない、といった理由です。もし資本不足 (資本の毀損) の原因が有価証券運用で大穴を開けたり、地元以外での融資で多額の不良債権が発生したことであれば、経営責任が追及されて然るべしです。地域金融の世界では許されないことだからです。

「顧客接点」と「資本 」を統合するのは地域金融機関の経営にとって最後の選択肢なのです。

(了)

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