地域金融の競争政策 (後編)

地域金融機関の競争政策でフォーカスすべきは、優良企業層 (県内外に関わらずどこからも借りられる) ではなく、ミドルリスク以下の層です。

そう考えると県という競争環境のくくりは広すぎ、藩単位、市町村ブロック単位で見るべきだと思います。

地域銀行がレイジーバンク化し、ミドルリスク層への資金仲介や、不芳先への経営改善支援や事業再生に腰が引けている状況では、藩単位、市町村ブロック単位で地域事業者を面的にしっかりと支える信用金庫・信用組合の存在が不可欠です。

そもそも信金信組はシステムや事務周りなど、バックヤードのシェアードサービス (共同化) が進んでおり、個別金融機関の規模は小さくとも、地域銀行以上のスケールメリットや効率性があります。

とくに信用組合の場合、シェアードサービスの完成度が高く、個別信組の規模は1000億円程度であっても、バックヤードで見れば22兆円の効率性があり、また預貸率は低くとも運用能力の高い中央機関に余資を集中することで、地域銀行を凌ぐ経営環境を確保しています。

シェアードサービスによるコスト効率性、狭域における顧客密着ならではのリスクマネジメント、軽減税率などから、身の丈に合った経営を行う限り、信金信組が地道に収益を上げていくことはさほど困難ではありません。

ところがこの20年余り、多くの信金信組が身の丈を超えた無茶で稚拙なリスクテイク (不動産融資や有価証券運用) により破綻し、消滅合併してしまいました。

多くの地域が「我が町の信金信組」を失ったのです。

長野県、新潟県、静岡県のように今も信金信組のネットワークが維持されている県と、信金信組の稀薄地区、空白地区がある県とに大きく分かれているのが現状です。

今後、ミドルリスク層への金融仲介、経営改善や事業再生を促して、日本型金融排除が発生しないような競争環境を維持していくには、信金信組の稀薄地区、空白地区に、新たな地域密着型の信金信組を作っていく必要があるものと考えます。

これは統合合併により規模を追求することで問題を解決するのとは真逆の発想です。

「我が町の信金信組」を作ることが、地域金融のエコシステムだと思います。

戦後、国内資金が大企業に吸い上げられ、地域の中小零細企業が資金調達に苦慮した際に、全国で多くの「我が町の信金信組」が設立されましたが、60数年を経て、いま改めて「我が町の信金信組」が必要とされています。

かつてと違うのは、代理貸付の活用やバックヤードのアウトソーシングといった様々な工夫をこらして、シンプルで軽量化した組織形態を目指すことも難しくないということです。

ただ、信金信組はコンパクトな組織であるがゆえに小回りが利き、顧客密着型金融には最適である一方、トップの力量次第というところもあります。かつて多くの信金信組が奈落の底に落ちた理由もトップの経営能力の欠如にあります。

ガバナンスと経営トップのサクセッションが、地域銀行以上に重要なポイントとなることを忘れてはいけません。


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コメント

  1. 寺岡弟分 より:

    二日に渡る競争政策、的確な解説ありがとうございます。狭域高密度の地域密着型金融に邁進する当社も経営層の代替わりにより以前と違和感あるものの、地域顧客等からの信頼を損ねる事のないよう先生のコメントを肝に銘じ若手と共に頑張ります。

    多胡先生のコメント作成時間を見ると、朝早くから夜遅くまで、あまり無理は禁物かと!

    また、寺岡兄からもコメント頂き、この場をお借りしてのやりとりで感謝とお詫び申し上げます。

  2. 旅芸人 より:

    寺岡弟分さま、

    信金信組は合併統合で大きくなると協同組織という本分を忘れて、ダメ地銀の悪いところばかり真似する傾向があります。

    これも経営陣が「協同組織の理念から逸脱した行動をしてもなんとも思わない」という厚顔無恥さに原因があると思っています。

    矜持と責任感のある人にトップになってもらいたいものです。