昨夕「地域金融の課題と競争のあり方」を示す報告書が金融庁のホームページにアップされました。
金融庁の金融仲介の改善に向けた検討会議の議論を踏まえ、同会議 (ワタシもメンバーです) が発表したものです。
本日、新聞報道されていますが、当事者であるワタシの認識と報道内容にはかなりの温度差があります。
「全国的に県境を越えた貸し出しが増えており、都道府県内のシェアだけで地方銀行の寡占度を測れないと指摘。人口減などで今後、複数の金融機関による競争環境を維持できなくなるとし、再編の必要性を訴えた。」(日経新聞)
多くのメディアには「公取委との対立軸で金融庁は再編を進めたい」というロジックが染みついているようですが、大いに違和感があります。
報告書の中に以下の文言があります。ここが要旨の部分だと思います。
——————–
〜 地域金融における競争のあり方を考えるにあたっては、
① 最低限の金融インフラの確保や中小企業の経営改善への貢献を含めた、地域における金融仲介機能の発揮、
② 金融システムの安定性確保と両立する競争のあり方、
を検討する必要がある。
——————–
再編の必要性など訴えていません。
この ① と ② の観点から金融庁は、
競争上の問題が生じる可能性がある同一地域内の経営統合について、
(1) 人口減少などからみて将来にわたり地域に健全な金融機関が複数行存立し得るか、 過当競争により共倒れになるおそれはないか、
(2) 県外金融機関の県境を越えた貸出動向などからみて、県内シェアの高まりにより「金利等の融資条件」や「金融サービスの質」にはどのような変化が生じるか、
(3) 金融機関が経営統合により生み出される余力(人材・資本等)を地域における金融インフラの確保や金融仲介の質の向上のために具体的にどのように活用すると表明しているか、その実現性・実効性は十分に見込まれるか、
を審査し、全体として、将来にわたり地域における金融インフラが確保され、地域企業・経済の 成長・発展に貢献するか否かをもって経営統合の是非を判断することになります。
さらに、
事後的にも、金融庁は、「金利等の融資条件」や「金融サービスの質」の不当な悪化が生じていないかを、統合した金融機関の検査・監督や、債務者向けの相談窓口等を通じて把握し、問題があれば是正を行うことが求められます。
そして、金融機関がコミットした経営統合の目的に関しても、定量的・定性的な指標等を活用して、その進捗・達成状況についてモニタリングを行い、 地域に統合の果実が還元されることの確認を求められることになります。
統合合併が本当に「地域顧客のためになるかどうかの“審査と事後モニタリング”を行う」と明確に記載されていますが、どこに「再編を後押しする」と書いてあるのでしょうか。
コメント
金融仲介の改善に向けた検討会議の「地域金融の課題と競争のあり方」を、私も拝読させていただきました。多胡先生の想いを本件で確認でき安心しました。ただし、本報告書に特定の金融機関により経営統合事案が取り上げられており、日経の論調もわからないでもないです。それよりも、各都道府県における地域金融の現状や、地域の拡大して九州や東北など地域ブロックではどのような現状であるかを深く分析していただいたほうが良かったのではないでしょうか。また、多胡先生が先日言っておられた信金同士での統合についても色々と事情があるなど地方銀行や信用金庫などの業態別に調査・分析されても良かったのではないでしょうか。また、分析だけでなく、ESG金融(社会や環境を意識した金融)も提案されても良かったのではないでしょうか。「地域金融の課題と競争のあり方」につきましては、私自身のなかでは消化不良的なところでもあり、日本銀行からの支援もあったことから、多少期待外れの感があります。