「地域金融機関は、①救済でもない限り、②全面片寄せでもない限り、合併なんてやるもんじゃない。」
こういうことを、さんざんこのブログで書いておりますが、X さんから詳しい説明をせよとのリクエストがありました。
バックナンバーの中から拾い出して読んでください、と突き放したいところでしたが、(最近は歳をとって親切になったので) 以下の通り、お話ししました。
まず、
大前提として、地域金融機関の合併には大義がなければなりません。それはお客さまのためになるか、地域のためになるか、が一番です。そして従業員のためになるか、です。
顧客本位のビジネスモデルのレベルアップのあくまでも「手段」ということですね。株主はその次です。
金融庁の「金融仲介の改善に向けたあり方検討会議」による「地域金融の課題と競争のあり方」(本年4月11日) は、不可解な日本地図が独り歩きし、物議を醸したのですが、その中にも、
地域金融における競争を考えるにあたっては、(金融システムの安全性とともに) 最低限の金融インフラの確保や中小企業の経営改善への貢献を含めた、地域における金融仲介機能の発揮が検討されねばならない、と明快に書き込まれています。(16ページ)
次に地域金融機関の合併におけるポイントを列挙します。
ポイント(1): 合併/経営統合(持ち株会社形式) と、業務提携/連携との大きな違いは、資本を合体するかどうか。資本の統合施策を除けば、業務提携や連携によってほとんどのことができる。(地域銀行の統合合併事例を見るに、彼らがやろうとしていることのほとんどは業務提携でできること。さらにいうとそれぞれの銀行は一部の例外を除けば資本余力があり、わざわざ資本を合体させて何をやりたいのか説明がない。) 信用金庫や信用組合の場合には、システムなどのバックヤード共通化が進んでおり、すでに業務提携の完成度が高い。資本に問題がある (つまり救済) 場合を除外すれば、合併の意味はどこにあるのか。
ポイント(2): 合併によるシナジー効果が出るには時間軸が必要。その一方で、合併のためだけのコスト(機会費用も含む)や、異文化の衝突にともなう時間の浪費、従業員のモラルダウンなどが発生する。収益力が落ちて、有価証券含み益などのバッファーが小さくなっている地域金融機関にこれらを吸収できる余力が果たしてあるのか。
ポイント(3): ②の全面片寄せだと上記の(2)の問題のかなりの部分を解決できる。全面片寄せの大原則は、顧客本位のビジネスモデルが確立されている地域金融機関に、そうではない地域金融機関がすべてを合わせることである。とくに重要なのは融資方針のところ。顧客本位のビジネスモデルは金融包摂である。金融排除 (顧客の業況が悪くなったら回収。そういう先にニューマネーを出すなどとんでもない) の方に片寄せするなどもってのほか。
顧客本位のビジネスモデルを極めていく過程で、顧客のさまざまなニーズに遭遇し、かつ顧客の支持も増え、マンパワー不足になった某信用金庫の合併事例もこの金庫への全面片寄せです。
記者会見の席で、救済の必要ない地域金融機関が「合併は対等の精神で」などとの発言が出たら、そこは突っ込むタイミングですね。