金融検査マニュアルのあとの融資に関わる引当などの考え方を示すディスカッションペーパー(案)がいよいよ公表されそうです。
8日の日本経済新聞にも記載されている通り、
~ 金融検査マニュアルによる一律の「形式主義」で引当金を計上 (同記事)
という画一的ルールベースを卒業し、
金融機関の裁量の世界に入ることになります。
ただし、経営理念を出発点として、これと整合的する経営戦略・経営計画が策定され、融資ポリシーからリスク管理、自己査定・償却・引当までの実務が一気通貫となっていなければならず、思考停止の地域金融機関にはハードルが低いとは思えません。
さて、
“脱形式主義”は融資の引当だけではありません。
コーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスク管理、、、、
これら形式主義になりがちな地域金融機関の経営の骨格ともいえる部分についても早急に分解掃除を行う必要があるのではないでしょうか。
形式主義で塗り固められた張子の虎 (羅針盤) で厳しい経営環境を乗り越えることはできません。
地域金融機関にとって、令和は形式主義からの脱却とともに始まるのです。
コメント
金融検査マニュアルによる一律の「形式主義」で引当金を計上に一言申し上げたい。
私はある信金の資産査定管理部門の8年4か月間において、自己査定および償却・引当について、財務会計上だけでなく、一括評価や個別評価の金銭債権に係る税務会計も含め一貫して行っていました。また、部分直接償却を行っていましたので、Ⅳ分類債権を無税化するまで会計上および税務上の二重管理も行っていました。
特に、一般貸倒引当金を算定する場合には、予想損失率を決定しなければなりません。予想損失率とは、経済状況の変化、融資方針の変更、ポートフォリオの構成の変化(信用格付別、債務者の業種別、債務者の地域別、債権の金額別、債務者の規模別、債務者の個人・法人の別、債権の保全状況等の構成の変化)等を斟酌の上、過去の貸倒実績率又は倒産確率に将来の予測を踏まえた必要な修正を行い、決定する。と金融検査マニュアルの資産査定管理態勢の確認検査用チェックリストの償却・引当(別表2)に記載されています。
私自身は、償却・引当(別表2)に記載されているとおり、完璧に行ってきたということはありませんが、それらを考慮して償却・引当を算定してきたものであり、形式的にやってきたつもりはまったくありません。
また、自己査定および償却・引当の結果は経営陣にも報告し承認を得て、監査法人とも協議を行いました。
そして、金融庁(財務局)検査と日本銀行考査の計7回を資産査定管理部門の一員として対峙しました。
これは私の憶測ですが、金融機関の経営陣というのは今も昔も資産査定管理部門や内部監査部門に在籍経験がないのではないかと思います。在籍経験があれば、資産査定管理態勢や信用リスク管理態勢だけでなく、金融検査マニュアルのすべてを理解していないと、百戦錬磨の金融証券検査官と十分な対話(ディスカッション)はできないはずです。
2000年代の最も厳格な金融検査を資産査定管理部門を過ごした者は、いま退職しているか定年を迎えていると思われますが、その当時の苦しい時期を過ごした者にとっては、形式主義という言葉には抵抗を感じずにはおれらません。
融資に関する検査・監督実務に係るディスカッションペーパーでは、私が経験した自己査定および償却・引当のレベルにより数段高度化していると思われます。多分、未経験者が携わると、うつ病になりかねません。経営陣は自金融機関で最も優秀な複数の人材を投入すべきですし、代表権のある経営陣も実務に加わり、金融当局ときちんとディスカッションできるよう態勢を整備すべきです。