同じ話で恐縮ですが

某メディアから「金融検査マニュアル後の地域金融、中小企業金融」についての照会があり、下記の通り意見書を出しました。

毎度同じ話ですが、とりあえず。

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平成の幕引きとともに平成地域金融の羅針盤「金融検査マニュアル」も役割を終えます。

30年あまりの平成の最初の10年、地域金融機関も多かれ少なかれバブル崩壊と不良債権の山に直面していました。不良債権処理の大ナタとなった金融検査マニュアルは1999年に導入され、本来の目的を果たしたものと評価できます。

しかし、20年の間にさまざまな副作用を招いたことは否定できません。

地域金融機関にしても金融行政サイドにしても、「形式主義がはびこる」、「過去の延長線上でしかものを考えない」、「個別論でしかものを考えない」という悪しき体質が染みついてしまったのです。

その中で地域金融機関は「極力リスクを取らない、手間をかけないプロダクトアウト志向」という安易な経営となっていきました。

ほとんどの地域金融機関がこのような行動をとると、リスクの低いゾーンでは価格破壊が起こり、それに伴う収益力低下の対応策として経営統合合併による規模と効率化を追求するという行動に出ました。

そして、金融検査マニュアルの副作用が蔓延する中で、金融機関の醜い自己中心ぶりが顕在化し、リスクのあるゾーンを中心に「金融排除」が鮮明になってきました。

この動きを受け、金融庁が顧客本位や顧客との共通価値の創造(CSV) を強く訴えることになったのです。平成の最終ステージで、森前金融庁長官が検査マニュアルの弊害を問題視し、「形式から実質」「過去から未来」「個別から全体」という3つの視点で地域金融の是正に向けてメスを入れました。

さて、

ポスト検査マニュアル時代においては、地域の実状を踏まえた、「金融システムの安定」(横軸)と「金融仲介機能」(縦軸) の“バランス経営”を地域金融機関が自ら考えて、実践しなければなりません。

行政サイドは検査マニュアルに則っているかをチェックするのではなく、横軸 (→ リレバン、金融包摂、事業性評価、事業再生など) あっての縦軸 (→安定的収益の確保、健全性)というところを「深度ある対話」によって、しっかり監督検査することが求められます。今後、検査監督の中で一番重要なチェックポイントとなるのは金融機関の“ヒト”のところになるでしょう。「経営人材」と「実働部隊である従業員」の両面です。

前者はガバナンスということで監督検査の対象ですが、ここでは形式主義が蔓延しており、経営者が本気にならねばガバナンスの枠組みも絵に描いた餅です。一方、後者の従業員のところでは前代未聞のことが起こっています。おびただしい数の早期退職、心の病の急増、採用での苦戦、ヒューマンアセットの崩壊が起こっています。

不良債権や有価証券運用の実態と同様に、まずはヒューマンアセットの実態を把握すべきです。ヒューマンアセットが有形資産を作り上げる根幹だから当然のこと。この数値が悪ければ新しい早期警戒制度に抵触するでしょう。4月に公表された「健全性についてのディスカッションペーパー」にも書かれているとおりです。

ポスト金融検査マニュアル時代の、融資の資産査定/引き当ては、画一的ルールからフォワードルッキングのプリンシプルベースに変わります。資産査定は「経営理念→経営戦略→融資ポリシー」が一気通貫の線上になければならず、経営そのものです。これを審査部や融資管理部門に丸投げしていないか、行政は深度ある対話で切り込んでもらいたいものです。

令和を迎え、新たな資産査定や引当の考え方を表したディスカッションペーパーが発表されますが、「実質、未来、全体」という3つの視点が随所に盛り込まれたディスカッションペーパーに注目するとともに、令和の地域金融は「真の意味での顧客本位」となることを強く求めたいものです。

(以上)

 

 

 

 


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コメント

  1. 増田寿幸 より:

    「リスクの低いゾーンでは価格破壊が起こり、」という事態は、住宅ローン市場で顕著です。この10数年間各金融機関のHP記載の住宅ローン金利は変化がないのに平均実行金利は着実に低下しています。したがって、レイジー度合いの指標として、貸出金に占める住宅ローン比率の増減(レベルではなくベクトル)が有効になります。

  2. 東北の銀行員 より:

    私事ですが先日、【「形式主義がはびこる」、「過去の延長線上でしかものを考えない」、「個別論(部分ということですね)でしかものを考えない」という悪しき体質】というものを目の当たりにする機会がありました。

    私は日頃から部下に対して「格付で企業を判断するな」と言い聞かせております。

    なぜならば、格付に対する銀行のイメージとその企業の実態が全く違うということは普通によくあることだからです。

    正常上位先だから金が余っているだろう、要注意先だから金に困っているだろうと勝手に決めつけるのは銀行の傲慢でしかありません。

    こんな形式主義が当局向けKPIなどの指標作りや本部のそうした作業の簡易化の為だとしたら、尚更本末転倒です。

    昨日、「集団左遷」というドラマの世界ですが、福山雅治さんが本質を捉えたセリフを言っておりました。

    リアルな銀行員も肝に銘じるべきだと思います。

  3. 寺岡雅顕 より:

    「金融排除」の一方で「業推無罪」の文化が、多くの金融機関で確立されてしまい、その健全性に大きな影を落としていると考えています。

     金融検査マニュアル、成果主義の他にも、職員側にも問題があったということです。成果を求められるプレッシャーに負け、安易に形式に頼り(この場合、表面上の決算内容に頼り、企業の実態に目を向けない取り組み)、目標をクリアしようとしたケースが多いという点です。これは、次のような負の渦を引き起こします。

    ・・・・

     業推無罪⇒(表面上の財務が見劣りする企業には)金融排除⇒(手っ取り早く数字を作るために)業推無罪に拍車

    ・・・・

     「おかしいと思うのだが、本部が目標を張るから仕方ないではないか」と仰る方々が殆んどです。一方で、正攻法で真正面から企業融資に取組み、着実に成果につなげた支店長も多くいらっしゃいます。彼等は、ミドルリスク層にも逃げることなく取り組んでいました。そこには金融排除はありませんでした。

     組織文化の変革と人づくりの重要性をつくづく感じます。