「本業利益」を比較材料にするな

昨今、地域銀行の本業赤字が話題になります。

「金融庁の集計によると、2018年度に地銀が貸し出しと手数料収入で得た本業の利益は105行の約4割で赤字だった。このうち5期以上連続で赤字の銀行は前年度より4行多い27行で、全体の約3割に上った。本業で稼ぐ力が回復せず黒字転換できない状況が続いている。」(8月28日、日経電子版)

本業利益は、(貸出残高 × 預貸金利回り差 + 役務取引等利益 – 営業経費) という算式から導き出されるのですが、一般的に資金需要が乏しい地域の金融機関は預貸率が低くなり、本業は赤字となる傾向があります。

本業利益というのは一つの切り口に過ぎないのですが、それを地域銀行の比較材料として使ったり、それをランキング付けすることには抵抗があります。週刊〇〇が喜びそうなネタですが。

あくまでも、それぞれの銀行が自己診断のために数値の変化を見るべきものだと思います。

さらにいえば、

「顧客とのビジネスが本業である」という定義だとすれば、融資先の経営改善や事業再生によるランクアップに伴う貸倒引当金の戻し益が入っていないのは片手落ちではないでしょうか。

中小企業の経営改善/事業再生は、地域活性化の第一歩である以上、これこそが地域銀行の本業であることは誰も否定できません。

いまの定義の「本業利益」に銀行が振り回されるようだと (そんなことでは困るのですが)、その数値を上げるために、融資ボリューム追求などのプロダクトアウト営業に拍車がかかり、人件費の削減へとつながりかねません。経営改善/事業再生支援などの手間がかかることは先送りになるでしょう。いずれにしてもリレーションシップバンキングをあと押しするものとはなりません。

そうなるとヒューマンキャピタルが劣化し、リレーションキャピタルの崩壊につながります。地域銀行としては致命的です。

繰り返しますが、「本業利益」はあくまでも自らの自己診断のための数値なのです。

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コメント

  1. 東北の銀行員 より:

    甚だ個人的な意見ですが、今や「本業利益・本業収益」という言葉には「銀行の三大業務」と同じような違和感を覚えます。

    世を見渡せば、経営改善コンサルティング業務など独自のビジネスモデルを創出し事業ドメインの拡大を図っている金融機関も多くなってきました。顧客に提供できるサービスが今後更に多種多様のものとなれば、一概に「これが本業」とは言えなくなる時代が来るような気がします。

    もちろん、私も日々顧客の本業支援を行いながら当行の本業となり得るビジネスモデルを模索しております(全く評価されませんが笑)。

  2. 橋本卓典 より:

    「何が本業なのか」ということは、可変的です。テクノロジー、価値観、社会経済情勢、法規制もめまぐるしく変わるからです。これは持続可能な収益とも直結し、ビジネスモデルでもあるので、まさに経営が骨身を削って考えなければならないことです。

    一方、普遍的に変わらないものは、誰かや何かの「役に立っているのか」ということです。これは経営以上に、お役に立つ最前線に身を置く現場が、感覚を研ぎ澄まし、知恵を絞って、常に考えていなければなりません。経営は、現場の感覚を重く受け止め、持続する事業化の算段をまた考えなくてはなりません。

    対価とは、役に立っているから支払われるものです。故に、役に立っていない商品やサービスをノルマ営業させるということは、組織の持続可能な存在意義すら破壊しかねない悪魔の誘惑(短期利益を稼ぎ出せる)だと思っています。

    「役に立っている」というのも様々な度合いもありますが、単なる預貸自体には「お役に立つ」ということが少なくなっているのも事実です。

    多胡さんのご指摘されるように、ランクアップによる貸倒引当金の戻し益は、事業者とともに歩む地域金融機関であれば、立派な本業であり、預貸だけを本業と捉えるメディアの捉え方が、もはや時代遅れなのだと思います。

    「何が本業か」とは「この組織は何か」を決めなくては、辿り着けません。同様に「私は何なのか」、その軸をはっきりさせないと、人生の重大な道を誤ったり、時間だけが過ぎてしまうように思えます。