2月17日の日本経済新聞朝刊のフロントページの記事、
「統合地銀の金利監視 利用者保護へ法整備~不当引き上げ禁止」
を読んでの感想と疑問です。この記事に関して、複数のメディアから意見を求められました。
~政府は統合・合併で融資のシェアを高める地方銀行が、取引先への強い立場を利用して不当に貸出金利を上げることを禁止する。法律に明記し、違反する地銀には業務改善を求める。収益環境が厳しい地銀は独占禁止法の適用除外として再編を促すことを決めている。金融庁は再編を後押しする一方、金利を監視して利用者保護を徹底する。(同記事より)
この記事では、この通常国会に提出される特例法案の中に「日銀の政策金利が大きく動いていないのに、貸出金利を急に大きく引き上げることなどは禁止」(同記事)と、“法律に明記する”ことに、ことさら注目しているのですが、
ワタシは同記事の末尾に付随的に記載されている「地銀の経営改善や金融サービスの維持が見込まれることも条件とする。」(同記事) の箇所がはるかに重要と考えます。
すなわち、「貸出金利の上昇」以上に、「金融サービスの維持」の方がポイントなのです。
「金融サービスの維持」、具体的にいえば、小規模顧客、業況の厳しい顧客、過疎地の顧客といった、経済合理性が強く出れば“金融排除”を招きかねない顧客への金融サービスが果たして維持されるかを、金融庁にはしっかりと監督してもらいたいものです。
ちなみに、本法律へのスタートラインとなった、2018年4月11日の金融仲介の改善に向けた検討会議による報告書「地域金融の課題と競争のあり方」には、以下の記述があります。
~事後的にも、金融庁は、「金利等の融資条件」や「金融サービスの質」の不当な悪化が生じて いないかを、統合した金融機関の検査・監督や、債務者向けの相談窓口等を通じて把握し、問題があれば是正を行うことが求められる。(同報告書20ページ)
メディアは、ここにある「『金融サービスの質』の不当な悪化」のところにもっと着目すべきではないでしょうか。
コメント
統合地銀であろうがなかろうが、貸出金利水準を早期是正措置のような罰則前提で規制すれば、地域金融でシュリンクフレーションなるものが発生します。シュリンクフレーションとは、消費増税時などに値段は据え置き、食料品などで容量やサイズを小さくするという現象らしいです。値段は絶対的に決まるものではなく、商品やサービスの質や量をもとに相対的に決まることを利用してシュリンクフレーションは生じます。
貸出であれば、銀行が取るリスク量をもとに、その値段であるところの貸出金利は相対的に決まります。貸出金利を据え置いて、銀行が取るリスク量を減らす手法は、担保・保証に依存し、予めリスク量が大きな特定の債務者層への貸出を回避する(いわゆる金融排除)ことで可能となります。食料品なんかだとサイズが小さくなることが万人の目に触れられるが、下位正常先・要注意先や小規模事業者向けの保全のない与信額(未保全額)など正味のリスク量は開示を免れられ、密室でシュリンクフレーションを進めることも可能です。
人口減少に苦しむ地域への金融サービスの提供であれば、すでに採算割れながらもサービス価格を据え置いて、フルバンキングサービスやフル営業時間を回避し、そのうち来店客や利用者もシュリンクして、店舗統廃合によるコスト削減を実現できます。
「金利等の融資条件」だけでなく、「金融サービスの質」の不当な悪化まで統合した金融機関については見るといっているのもシュリンクフレーションを警戒したとも思われる金融庁であるのに、「金利を監視して利用者保護を徹底する」のも金融庁というこの記事は何なんだか・・・。