ある企業経営者への手紙

〇〇様

先日は長時間にわたりお時間をいただきありがとうございました。率直にお話しいただいたことに心より感謝申し上げます。

財産のすべて失うリスクのない金融人が「伴走支援は、金融機関がお客様と一緒に事業リスクをとること」などと軽く語ってはいけないなと猛省しています。

相談相手なんておこがましい、まずは孤独な社長さんに語っていただく、最初は貸し手と借り手の関係だから本音を聞くことはできない、でもそれをコツコツと続けることで信頼していただけるかもしれない、その中でお客さまの事業のことを一歩一歩理解して、お客さまに少しづつ近づくことができるかもしれない、

こういうプロセスを粛々と積み上げていくしかない、と改めて思いました。

金融機関は事業者さんが居なくなれば終わりです。「事業をやりたい」、「家業を引き継がざるを得ない」、そういう人たちを徹底的に支援しなければ、金融機関自体の存続も危ぶまれます。しかるに多く金融人にはその感覚がまだまだ薄いと思います。

「金融人の覚醒、それが地方創生の第一歩」と長年にわたり吠えておりますが、まだまだ視界不良です。それだけ金融人というのは居心地の良いサラリーマン根性に染まっているということです。微力ですが、20年間言い続けていたことを壊れたレコードのように発信し続けるつもりでおります。

2020年盛夏

多胡秀人

(ほぼ原文通りです)

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コメント

  1. 長川康一 より:

    ある企業経営者への手紙は、昨日BSプレミアム英雄たちの選択「二宮金次郎」の話そのものと感じた次第です。
    磯田道史さんは、金次郎の活動で特筆されるべきこととして、現状をしっかり数量化する能力、農民の所へ毎日個別訪問して情報交換するコミュニケーション能力の2つをあげていました。
    そして「正しい方向に向かって、みんなが楽しく働く、心の田んぼを耕し続け、そこで生まれた富は還元し合う」実践活動をした人と。
    一方当時の武士については、前例重視で「やってる感」を出すだけの、非常に劣化した存在と述べていました。
    多胡先生の手紙での思いは、二宮金次郎の思いではありませんか。

  2. 橋本卓典 より:

    論破では、言い負かされた方は、その場限りの改善にしかなりません。怒られただけで、自分事になっていないからです。優越的立場にある者ほど、相手の話を聞くアクティブリスニングが必要です。債権の質は、債務者の行動変容によってのみ左右される(追手門学院大、水野教授)のです。相手の話とは、中小企業の経営改善支援の場合「どう儲けようとしているか」です。儲けがうまく利益につながらないのは何故か。真因に迫らなくてはなりません。最悪なのは「在庫や設備、人員が過剰だ」と、業種特性、個社特性も理解せずに、財務書面だけで決めつける論破的支援です。儲けポイントを破壊するような「支援」では、経営者は意気揚々と自分事として、改善に取り組まないでしょう。相手に自分事として行動変容していただく為には、まずこちらが自分事として、相手の話に耳を傾けることです。