プログレスレポートを読んで (下)

昨日の「プログレスレポートを読んで () に続く、後半です。

あるメディアが全国の地域銀行に対するアンケートの中で、今後目指すビジネスモデルを質問したところ、ほぼ例外なく、「リレーションシップバンキングである」と回答したとの話を聞きました。

他の施策が行き詰まりになり、消去法でリレバンが残ったのではと揶揄する声もありますが、ワタシ自身も「なんちゃってリレバン」の域を出て「真のリレーションシップバンキング」に大転換しようとしている銀行はマイノリティのように思います。

「なんちゃってリレバン」に関しては昨日の前編で詳しく記載したのですが、惨めな末路が待っているだけです。

話は変わりますが、

地域金融専門のコンサルティング会社 八代アソシエイツのホームページに掲載されている論考「なぜ『形式から実質へ』は進まないのか」(821日付) には地域金融・中小企業金融に関わる人たちへの示唆に富んだ内容となっています。

平成29事務年度で金融庁が打ち出した「形式から実質へ」という言葉は、「過去から未来へ」「部分から全体へ」とともに金融庁の検査監督の大転換の示す象徴的なメッセージです。

最低基準 (ミニマム・スタンダード) 形式的に守られていることを確認するのではなく、実質的に良質な金融サービスが提供できているか (ベスト・プラクティス) を探究的な対話の中であぶりだしていくやり方は、いまも継承されていることは周知の通りです。

八代論考では、地域銀行等の預かり資産業務 (資産形成) に関わる検査監督ではこの2年間で「形式から実質へ」の検査監督が浸透し、金融機関側の業務運営もベスト・プラクティスへと進展を見せたと評価しています。

理由は預かり資産業務のベスト・プラクティスが明示され、それが社会的に共感を得たことにあるとの考察です。

ところが地域金融・中小企業金融は、いくら金融機関側が「形式から実質へ」と嘯いたとしても、「なんちゃってリレバン」である限り、顧客は真の意味で顧客本位と認めるとは思えません。社会的にも共感を得ていない「なんちゃってリレバン」はベスト・プラクティスと認定されることはなく、金融機関のパフォーマンスに過ぎない、つまり形式主義でお茶を濁しているとしか思われていないのではないでしょうか。

コスト削減についても同様です。金融機関側が資金利益が低迷していく中、採算を確保したいがために、地域経済が不利益を被るような「地域へのコミットメントコスト」の削減が社会的に共感を得るわけはありません。地域へのコミットメントコストとここで指すのは、郡部店舗網の維持とかだけでなく、期待収益に比して過大な信用リスク負担や真のリレバンによって適切な顧客価値を提供できる人材の育成コストも含まれています。

結局のところ、地域金融・中小企業金融が「形式から実質へ」、ミニマム・スタンダードをベスト・プラクティスにグレードアップするには、真の意味でのリレーションシップバンキングを粛々と進めるしかないと思います。

そして真のリレバンの証ともいえるコミットメントコストを受け入れることで地域の共感を得れば、金融仲介業務も預かり資産業務と同じように「形式から実質へ」の領域に入るのです。

金融行政サイドも、

「地元とする地域の経済活性化を犠牲にして、一切の自行財務改善を意図した金融仲介を行うべきではない」

というような社会的共感を受けるベスト・プラクティスを明示すべし、と八代論考は結論づけています。

ワタシとしても「コスト・リターンのバランス」ではなく、「コミットメントコストとリターンのバランス」という視点での検査監督を推し進めるべきだと思います。

 


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コメント

  1. 八代恭一郎 より:

    橋本さんのご意見を受けて、掲題論考修正しています。ベストプラクティスは明示しなくても、資産形成同様に遠回しに示唆していただければ十分です。

    一つ気になるのが、“真の意味でのリレーションシップバンキングを粛々と進める”地域金融機関と、そうしたことを避け続ける地域金融機関について、行政方針でも横軸(ビジネスモデル改革進捗)判別手段として、企業アンケートと金融仲介機能発揮のベンチマークが相当期待されているようですが、正確に判別できるのでしょうか。

    優越的地位から取引銀行について厳しい意見をすることがないアンケートに過ぎない企業アンケートで、運良く評価が高かったことと裏腹に、実際にはなんちゃってリレバン執着と地域へのコミットメントコストを巧みに削減している様な地域金融機関が、いつまでも再編対象スクリーニングからもれるようなことを危惧しています。

  2. 東北の銀行員 より:

    H15年3月27日「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて(金融審議会第二部会)」を繙くと、リレバンの定義は「金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデルを指すのが一般的である」とあります。

    例えば、商品販売ノルマを背負った担当者が長年取引の顧客に日々通い詰め懸命にセールスした結果、獲得目標達成に至った時は相当の満足感があると思います(もちろん私にも経験があります)。

    そして顧客の側も「本当は必要ない商品だが、いつも融資で世話になっている○○さんが喜ぶなら」と納得して契約するのであれば、それは確かに顧客満足でありリレバンとも言えるのかも知れません。

    しかしこの場合、担当者がどんなに懸命にセールスしても必ずしも顧客の真の利益、つまり「顧客本位」にならないという問題が生じます。

    先日、橋本様からサブスクリプション×リレバンのヒントを頂戴しました。サブスクは元々ストックビジネスである銀行に適したビジネスモデルであると私は思います。

    但し、これを実現しようとすると上記のような「単なる顧客満足」では通用しません。

    顧客の真の利益つまり「顧客本位」を継続的に提供する必要があり、同時にその価値を計測する手法をしっかりと検討しなくてはなりません。

    それは果たして訪問頻度?NPS?CSI?JCSI?主要経営指標?でもまだ何か足りないような気がします。

    「リレバン×サブスクリプション」は地域金融機関にとって今更ながら改めて「リレバン」の定義を見直す契機になるのではないでしょうか。

  3. 奈良義人 より:

    橋本さんの言う通りです。リレバンはサブスクリプションそのものなんです。そしてその本質は、顧客との関係性が損か得かとの関係ではなく、共感の関係にあること。そのためには、金融機関の地域に対してしたいことが明確でなければいけません。それが経営理念であり、多胡さんの言うコミットメントです。ここに共感がないと、関係性は長続きしませんし、収益に還元されません。

  4. 奈良義人 より:

    橋本さんの言う通りです。リレバンはサブスクリプションそのものなんです。そしてその本質は、顧客との関係性が損か得かではなく、共感の関係性があることです。そのためには、金融機関の地域に対して何をしたいのかが明確でなければいけません。経営理念が多胡さんの言うコミットメントです。これがなければ、関係性は長続きしませんし、結果としての収益として還元されないと考えます。

  5. 橋本卓典 より:

    八代さんご指摘の「企業アンケートと金融仲介機能発揮のベンチマークが相当期待されているようですが、正確に判別できるのでしょうか。」についてです。

    「計測されている」と感じるだけで、人は身構えます。二重盲検の問題です。自然体を計測するのは非常に難しいのです。

    ここで申し上げたいのは、地域生産性向上支援チームが得た知見です。創設1年です。なかなかのものだ、と私は思います。

    お客様だけでなく、第三者として金融機関と事業者の関係を見ている、信用保証協会や税理士、支援家などと幅広くネットワークを構築したことの意味が大きいということです。

    金融機関当事者から出させる一次情報(ベンチマーク)、お客様からの二次情報(アンケート)に加え、三次情報(関係機関、関係者)という複眼的なアプローチの可能性が出てきたのではないか、と思います。これを有効活用していけるかどうかは金融庁次第ですが。

    実際、第三者から「実は、あの銀行は~」というのは、金融庁に入っています。その上で「懲らしめてやる」ではなく、「事業者の生産性向上」のためにエネルギーを振り向けた、のが面白いと思います。これはこれで、「金融育成庁への変化」ではないでしょうか。実際、ある銀行は、頭取自らが積極的に協力し、対話の「見える化シート」の作成にこぎつけました。

    もちろん「目に余る暴挙」には金融庁の介入も必要ですが、エネルギーは「懲罰」に当てる暇があるなら「地域の元気」に配分していただきたい、と思います。

  6. 橋本卓典 より:

    連投すいません。

    名誉のために申し上げますが、「地域金融のサブスク構想」は、京都信金増田会長の発案です。

    毎回、相手が買ってくれるかどうか分からない「売り切り&懇願or威圧型ノルマ営業」に、人・予算の資源を振り向けるのは、愚かな経営だと思いませんか?

    「顧客本位」など生ぬるい。そんなものを遥かに突き抜けた価値を認めてもらうことによって成立するサブスクに取引関係を昇格、昇段させる。浮いた経費をさらなる顧客サービス向上の原資に振り向ける。これが賢い経営ではないでしょうか?

    未だに旧ソの強制労働を意味する「ノルマ」を平然と割り当て、懲罰的に人事評価を引き下げ、どんどん人が辞めている金融機関があることを先日も目の当たりにしました。

  7. 八代恭一郎 より:

    企業アンケートへの信頼性の件ですが、財務局が企業アンケート結果を基に作成する対話資料などで自らの地域での評価を地域金融機関知ることもあるのですが、何も新たな取り組みをしたわけではないのに、評価が急に改善したケースがあり、調べてみると地元新聞でこの地域金融機関の取組みを礼賛するような記事が載った時期と企業アンケート調査時期が重なっていました。この地域金融機関は、企業アンケートの対象企業とはならない帝国データバンクの評点もないような小規模事業者(当然債務者区分も推計できない)との取引が中心であることも踏まえると、この地域金融機関とそれほど取引のない少数の事業者が、地元紙の公開情報を頼りに回答している懸念があるということです。しかも、アンケート回答事業者には、この地域金融機関のグループ企業も多かれ少なかれ含まれているとの話も聞いています。

  8. 橋本卓典 より:

    八代さんのおっしゃる通り、アンケートは万能ではありませんし、計測には大体、何らかのバイアスがかかります。過信は禁物です。他方、これまでの金融庁は金融機関からのヒアリングという「単眼行政」しかしてきませんでした。これで地域を語っていたのだから、恐ろしいという以外に言葉が浮かびません。バイアスがかかりがちな取引事業者だけでなく、ちゃんと地元をみている税理士、保証協会、自治体、支援家など、「本当はね」「実はね」を知るキーパーソンに聞くのが一番です。金融庁も2年目なので、十分にできているはずもありませんが、分かっていると思います。