地域金融の競争環境はシンプルにあらず

昨年、新潟の地銀2行の統合合併に公取委からゴーサインが出ました。その一方で、長崎の方は膠着状態が続いています。

昨今、地域銀行の競争環境についての意見を求められることが多いので、改めて私見を下記の通りまとめてみました。

周知の通り、地域銀行の競争政策における論争のポイントとなるのは「地域内の融資ボリュームのシェア分析」です。「長崎は合併すると融資シェアは7割になる」「新潟のケースは融資シェアは5割だ」といったフレーズが飛び交っています。

私は「地域内の融資の全体ボリュームのシェア分析」をもって、競争環境を断定するのは、大雑把すぎて無理があると考えています。

すなわち「信用力の高い優良先や大企業」 (Aゾーン) は、それなりの借入ボリュームがあるところが多く、そして県内県外の金融機関のどこからでも借りることができるからです。統合合併があろうがなかろうが、自らの意思でシェア調整をすることもできる存在です。

したがってAゾーンは統合合併により「市場構造が非競争的に変化し,一定の取引分野における競争に何らかの影響を及ぼす」(公正取引委員会「企業結合審査に関わる独占禁止法の運用指針」) の対象から外すべきだと思います。

それに対し、信用力の高くない企業 (Bゾーン) は、地元の地域銀行の統合合併によって、借入における競争環境に重大な影響を及ぼすことは間違いありません。このゾーンの分析は精緻に行う必要があります。

① 他に借りる選択肢があり、借入条件は悪化しない。

② 他に借りる選択肢があるものの、借入条件が悪化する懸念がある。

③ 他に借りる選択肢がなくなる (日本型金融排除へ)。

Bゾーンに対しては、アンケート調査などのヒアリングを集中的に行うべきであり、その中で① ② ③ の実態を正確にあぶり出す必要があります。

さて、合併の際によく行われる「貸出シェア vs 借入条件 (金利)」という分析手法は、トランザクションバンキングの世界での話だと思います。

(選択肢が多い) Aゾーンの信用力の高い企業は、地元の地域金融機関がトラバンだけなのであれば、複数の金融機関 (新規も含め) を秤にかけて金利引き下げを図る、その過程でシェア調整もおこなうというのは合理的な行動です。トラバンの世界では、Bゾーンから「合併後に銀行のシェアが増大することで借入金利が不利に働くのでは」という懸念が強く出ることは言うまでもありません。

地域金融・中小企業金融はトラバンだけでなく、リレバンも混在している状況です。とはいえ、レイジーバンクのビジネスモデルはトラバンであり、レイジーバンクが多数派である現状、トラバン優位であることには間違いありません。

ところが、組織的継続的なリレバンが機能し始めると、「貸出シェア vs 借入条件 (金利)」による分析方法には大きな調整が必要になると思います。リレバンの効果は「シェアと金利」という座標軸だけで測れるものではないからです。

ある地域 (過疎地です) は地元の信用金庫が真のリレバンによって、AゾーンBゾーンの顧客層をしっかりと支えています。地域銀行はAゾーン顧客と取引はありますが、トラバンのぶら下がり融資で、メインを取る気はまったくありません。地元顧客 (AもBも) の信用金庫に対する評価は「業況が厳しくなっても絶対に支えてくれる。財務面のみならず事業の相談に乗ってくれるパートナー。これを考えたら借入金利の問題ではない。」

現状は長崎にも新潟にも組織的継続的なリレバンを行なっている地域銀行は存在していません。したがって、合併の影響度をトラバンモデル用の「シェアと金利の分析」である程度実態をつかむことはできるでしょう。ただ、組織的継続的なリレバンモデルの銀行が出てくるとそのような単純な話ではありません。


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