2016年3月26日に多胡が出したレポートです。
このレポートが日経ヴェリタスで取り上げられました。
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「これぞ本物」
千葉銀行と武蔵野銀行の「資本統合をしない業務提携」が発表されました。
3月25日に行われた両銀行のトップによる記者会見では、経営統合と合併こそ地銀の目指すべきものと盲信する”再編症候群”のメディア側に困惑が広がったようです。しかし、地域金融機関の本分である地元顧客への支援を最優先に考えれば、両行にとってこれこそがベストな選択です。
昨今、当たり前のように語られる「人口減や経済環境が悪い。だから経営統合」という奇妙なロジックは、筆者にはまったく理解できません。
人口減や経済環境の悪化を地域金融機関の再編に安直に結びつけることは、金融機関の「自分たちだけが良ければ」との独り善がりの論理であり、「地域顧客のために」との思想が完全に欠落しています。地域金融機関の矜持と責任感はどこに行ってしまったのでしょう。
「人口減や経済環境が悪い」のであれば、そのための施策を打つことこそが、経営統合をする前にやるべきことではないでしょうか。
多くの地方銀行には資本余力があり、そのための施策はいくらでも打てるはずですし、そのための業務提携などの選択肢もあります。それをとことん突き詰めずに短絡的に資本統合というのは理解に苦しみます。
さらに一緒になるためだけの膨大な労力やコスト (不毛なものも多い) を考えると、「業務提携 (含む共同化)」を凌駕するだけのメリットは資本統合にはありません。そもそも、いま、経営統合や合併を謳っている地銀グループが掲げている施策は、業務提携と共同化ですべてできることです。
資本を統合することはそれぞれの銀行の株式を上場廃止することですから、それなりの覚悟が必要です。「業務提携と共同化」ではできないこと、かつ地域のお客様にとって、単独銀行よりもメリットを提供できる施策を出さなければ、資本統合は正当化されないでしょう。
資本統合せずにお互いが独立性を守ることで、それぞれの地域 (秩父の山奥や房総半島の突端のような過疎地であっても) にきちんとコミットし、徹底した業務提携と共同化によるスケールメリットを生かし、地元顧客に対してより良いサービスを提供することが、いままさに求められています。
千葉銀行と武蔵野銀行の資本・業務提携の記者会見では、両行が3%の株の持ち合いをすることに関し、メディア側に「時代に逆行しているのでは」との空気が流れたと聞きました。これは株の持ち合いをコーポレートガバナンスコードの側面だけでしか考えることのできない思考凍結以外の何ものでもありません。なぜ業務提携の本気度を表す「決意表明」と受け止めることができないのでしょうか。
了
(2016年3月25日)