先日、久しぶりに会った友人との話から始めます。
彼は還暦を過ぎていますが、かつては米国の老舗投資銀行で東京の部門長まで上り詰めたやり手です。
「プレゼンデーション能力の非常に高い部下がいた。顧客の前で立て板に水で提案を繰り出していく人間だったが実績を上げることができなかった。顧客の話を聞く力がなかったからだ。一方、才気走った提案を機関銃のように行うこともなく、ひたすら顧客の声を聞いて、それに速やかに対応した方の部下は大きなディールをまとめていた。」
この手の話は生き馬の目を射るインベストメントバンクの世界だけではありません。
昨年、株式会社ジンテック主催のセミナーにおいて、「リレーションシップ インパクト論」の講演をされた京都信用金庫の増田会長は、素晴らしいリレーションシップ インパクトで実績を上げた職員が大事にするのは「聞く力」だとお話しされました。
投資銀行業務であろうが地域密着型金融であろうが、顧客本位のビジネスで成果をあげている人たちは「聞くこと」を大切にしているのです。
今週、不愉快なことがありました。
お客さまからの依頼をにぎりつぶし、放置したままにするという事象に遭遇しました。
お客さまがわざわざこちらのことを考えて、チャンスを与えてくださった好意を踏みにじったことに、憤りを覚えました。
プロダクトアウトの物売りしかできない人たちには、少々難易度の高いご相談に対処できないのかもしれませんが、わからないからといってそれを放置するという行為に呆れ果てたのです。
ご相談の内容の重要性、お客様の配慮が理解できなかったとしたら論外です。感度が悪いなどといっている場合ではありません。
こういう話は、最近の地域金融機関の営業現場では稀有な出来事ではないように思います。
こういう人たちに「聞く力」の重要性を理解させ、行動させることは大仕事ですが、やらねばなりません。
お客様のためにも。
コメント
「聞く」というのは、相手を知ろうとすることです。
この当たり前のことを放棄する、という特異な現象が起きているのが金融です。他の産業では、あり得ないことです。優越的地位、或いは、情報の非対称性によって売りつけることができてしまうからです。
プロダクトアウト&営業ノルマによるプッシュ営業の人たち、それを是認する経営者には「いや、なぜ今更、相手を知る必要があるんだ?現場を知らない者の妄言だ。寝言だ」と首をかしげるでしょう。
誰も恥ずかしくて口にしませんが、本当のところ、給与水準の維持が至上目的なので、こうした思考回路になっているのだと思います。理想、理念は二の次。従業員の給与すら確保できなくなってきているので、焦りから外貨建て保険でも仕組み債でも関係なく売りまくるのです。
金融庁が上から「顧客本位をちゃんとやれ!」と言えば、やるでしょうが、飽くまでも形式でしょう。
DNAの問題でも、性格でも特性でもありません。稼ぎの「妥当性」に目を向けていられない「状況の力」に抗えず、普通の人たちが、顧客に仇なす行為を仲間のために行っているのです。優しく、真面目な仲間思いの人たちです。
飛躍した意見を申し上げるかもしれませんが、副業の解放と共に、「給与の呪縛」から解き放たない限り、多くの金融機関は、あの手この手で、悪を売り続けるのではないか、と思うのです。
具体的には、本部、出世するほど、副業を解禁し、給与を下げるということです。他で稼いで、可処分所得を確保してもらえれば、金融機関で余計な商品を売りつける必要はなくなるのでは、と最近思います。
今週は、GABVの世界大会にバンクーバーに来ていますが、ともかく感じるのは、金融機関の多様性です。そして、たとえ拙くとも、皆さん自分で考え自分の言葉で語ろうとしています。
改めて感じるのは、日本の金融機関の均一性と閉鎖性です。国際的な場所で、自分のことを自分の言葉でどう語れるのか、日本の地域金融の皆さんに問いかけたいです。
聞く力、語る力、コミュニケーション能力、多様性、包摂性…。すべてが通じているように思えます。だから、根が深いのです。改めて、京都信金の増田会長の慧眼を感じています。橋本さんの聞く力は凄いし、その感性に惹かれます。
厚顔無恥の金融マンは勘弁して欲しいです。
コンサルタントに必要な能力とは、
①.顧客のお悩みや実態を正確に把握するための「聴く力」
②.上記①からロジカルに課題を整理し、解決策を組み立てるための「考える力」
③.上記②の解決策について、顧客に十分ご納得を頂くための「伝える力」
の3つとされており、中でも「聴く力」(“聞く”ではなく“聴く”です)は、真っ先に挙げられる要素です。
さて、「コンサルティング能力を大幅に強化!」と散々吹聴している金融機関においては、職員の「聴く力」とは一体如何ほどのものなんでしょうね?