🚩県民に説明できるのか?

10数年前に「地域金融論」(キンザイ)という本を上梓したのですが、その中で、

「信用保証協会の100%保証付き融資の金利は、国債の利回りに銀行の取り扱い手数料を加算したレベルであるべき」

と書きました。

当時の信用保証協会の全額保証融資の金利の異常な高さに驚愕、この制度は中小企業支援のためではなく銀行の収益をかさ上げする(銀行救済)のが目的なのかと本気で思いました。

リーマンショック後の緊急保証制度ではまだまだこの名残があったのですが、今回のコロナ対応の全額保証の制度融資の金利は本来あるべき姿に修正されていると思っていました。

あに図らんや、6月17日の日経電子版「奈良モデル融資に転機、コロナで破格の厚遇 誤算も」を見ると必ずしもそうではないようで、、、

~奈良県が独自に実施していた新型コロナウイルス禍対応の中小企業向け制度融資が曲がり角を迎えた。(中略)5月1日からは、都道府県の制度融資を活用したコロナ対応の融資を民間金融機関が一斉に開始。基本は政府系と同じ内容だが、奈良県はこの制度の金利も全額負担を決めた。(中略)高めの金利も重荷だ。奈良県の既存の制度融資の金利は、以前から2.175%を基準としていた。平常時は借り手との交渉によって、さらに低い金利に決まることも多かったが、コロナ禍への対応でスピードが求められる中、県はこの金利を一律で金融機関に支払うことを決めた。ただ、奈良地盤の南都銀行の場合、2020年3月期の貸出金利回りは0.87%。実勢を大きく上回る金利は県財政に負担が重い。新型コロナ対応の融資もあり、南都銀は21年3月期の貸出金利息について、前期から12億円の増加を見込む。(同記事より)

どういう経緯で決定されたのか知る由もないのですが、2.175%は明らかにミスプライシングだと思います。奈良県の財政状態は存じ上げませんが、大盤振る舞いもいいところです。

ミスプライシングを突いて収益を上げるというのは有価証券運用などの市場取引では、ある意味当然の行為と容認されるのですが(プロの世界ではミスプライシングしたほうが悪い、自業自得)、国や地方公共団体の公的資金が絡む場合には、そうはいかないのではないでしょうか。

さて、記事の文中にある銀行は奈良県の指定金融機関です。

銀行にとっては収益増になるものの、これが公的資金がらみのいわばミスプライシングによるものであるとすれば、取り組むにあたっては「広義のコンプライアンス(社会的倫理)の観点」から十分な議論が必要だったのなのでは(例えば、「県民に対して説明できるものか」とか)と考えこんでしまいます。

ワタシは某県の指定金融機関である地域銀行の社外取締役の任にありますが、もしワタシの関与する銀行でこのようなケースが判明したら、ガバナンスの観点から執行部門に対し直ちに説明を求めるでしょう。

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