🚩企業価値を上げる競争

2015年5月24日に、「リレバンの競争」という小論を書きました。

まずはその内容をご高覧ください。

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  10年以上前のことですが、金融庁でリレバンの議論をしていたときに、筆者は地域金融機関の間で「リレバンの競争」が始まるのではないかと密かに楽しみにしていました。

  当時も今も地域金融機関の経営を語るときに必ず出てくる、地域における人口減や事業者数の減少、地域経済の衰退を展望すれば、従来型のビジネスモデルでは座して死を待つだけ、とリレバンの議論の際に考えたのです。そこで地域金融機関に偏在している地域の人材と情報ネットワークを地域事業者の本業支援に振り向けて、事業者の企業価値を高め、その集積体である地域経済の底上げを図り、結果として地域金融機関自身も潤うという「Win-Winのビジネスモデル」を構築したわけです。それがリレバンです。この流れの中で、金融庁は2003年6月に預金取扱金融機関が付随業務として事業者の本業支援(経営コンサルティングや販路拡大のお手伝いなど)を行い、その対価として手数料を取れるようにガイドラインの見直しを行いました。

  もちろん、リレバンをやれば地域経済社会が抱える問題のすべてが解決されるとは思いませんでした。しかし、座して死を待つのではなく、いま地域が持っているリソース (それが金融機関に偏在) をフルに活用して地域経済社会のためにできることからとにかく始めようということだったのです。

  多くの地域金融機関がこのビジネスモデルに共鳴し、地域事業者の本業支援に力を入れることで、本業支援の分野で金融機関同士の競争が始まると予想していました。地域金融機関はリレバン競争によって単なる資金仲介業から、地域事業者さらには地域経済社会が抱える「課題解決業」(もちろん資金仲介は含みます)、地域の事業者や個人のお客様への「感動体験提供業」(サービス業の究極です)へと変身するであろうと考えていました。

  それから10年以上経過しました。予測した通り、人口減少や地域経済の衰退は進みました。ところがリレバンの競争が起こるどころか、昨今は従来型の預貸業務と預かり資産業務による安易なプロダクトアウト化に拍車がかかっています。プロダクトアウトすなわち単なる物売りですから、競争の差別化要因は価格であり、金利です。リレバンの競争ではありません。地域金融機関の力で事業者の企業価値を高め、その集積体である地域経済の底上げを図り、結果として地域金融機関自身も潤うというWin-Winのビジネスモデルでの競争など起こりませんでした。行き着いたのは、規模拡大と効率化による金融商品の価格競争であり、経営統合や合併といった金融再編の道をまっしぐらという展開になっているのです。

  規模の拡大や効率化を完全否定するつもりはありませんが、それによって失われる大きなものを忘れてはいけません。規模の拡大や効率化で金融機関自身は生き残れるかもしれませんが、最も大事な地域の事業者の企業価値を上げ、その集積体である地域経済の活性化という大切な命題が疎かになりかねないのです。地域とのWin-Winの関係にヒビが入りかねないのです。地域事業者、地域経済が良くならなければ、その地域が地盤の金融機関にとっても新たな融資の機会や既存融資の信用リスクの低下は期待できず、収益拡大は望めないのです。

  繰り返しますが、リレバンというフィールドでの地域金融機関同士の競争は未だ実現していません。ただ、他に生き残りの選択肢がないということに気づき、リレバン (事業性評価型の中小企業取引 も基本は同じです) にすべてのリソースを投入する地域金融機関も出てきました。

  このような金融機関の真摯な取組みは、間違いなく金融機関にとっても地域にとっても良い結果をもたらすものと考えます。結果が出始めたのを確認して、競合金融機関が遅まきながらリレバンだ!と騒ぎ出し、やっとリレバンの競争がスタートするのでしょう。ただ、リレバンを組織的継続的に展開し、それが現場の隅々にまで浸透するには多くの時間を要します。担い手である現場の意識変革が容易ではないからです。リレバンの競争は価格競争のように簡単に先行者に追いつき追い越すことはできないのです。手遅れです。そのときに気づいても後の祭りですね。

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さて、

これを書いてから5年を経た今も、リレバン競争、すなわち顧客の企業価値を上げる金融機関同士の競争という図式は、全国津々浦々見渡しても見えてきません。

もはや諦めの境地に入っていたのですが、一筋の光明が差してきました。

9月18日のジンテック主催「可能性の地域金融セミナー(第1回)」。

所用があり、最後のところしか聴講することはできなかったのですが、山形県における地方銀行の取り組みは「企業価値を上げる競争」に変わってきているとのこと。

さっそく、出席された方たちに詳細をうかがわねば。

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