現場メルトダウンの地域銀行は蘇生できるのか?

ワタシは地域金融機関の経営コンサルタントです。

今までいくつかの地域銀行の再生局面で微力ながらお手伝いしていますが、その中から、X 銀行と P 銀行の事例を説明します。

不祥事にともなう度重なる業務改善命令を受けた X 銀行は、金融庁がワンマントップを退任させ、新経営陣のもとで再生モードに入ったのですが、当時の X 銀行の現場には、旧経営陣の重用した国際派の一部が早期退職した以外、ほとんどの人材が残っていました。

ほぼ同時期、 P 銀行にも業務改善命令が連続して突きつけられました。不良債権処理の過程で、資本サポートを頼んだファンドとコンサルが打ち出した施策は、経費削減とメガ流の「選択と集中」モデルでしかなく、その結果 顧客の多くが離反、行員の殺傷事件が起こるなど現場はすさみきっていました。

P 銀行は資本構成を変え、経営陣を刷新し、新経営陣のもとで、地元の中小企業支援に徹した「本業支援モデル」へと大きく舵を切りました。

幸い P 銀行でも、ほとんど人材流出がありませんでした。現場にとって納得感のあるビジネスモデルが提示され、新経営陣が揺るぎなきリーダーシップを示すことで、それを待ち望んでいた現場が一斉に走り出したのです。

繰り返しますが、10年前の X 銀行の事例も、P 銀行のケースも、厳しい状況に追い込まれた原因には不良債権問題があり、それから誘発される不祥事などから業務改善命令の対象となりましたが、現場の人材がしっかりしていたので、経営陣を入れ替えることで再生局面に進むことができました。

さて、

目下の地域銀行の厳しい経営状況は、不良債権問題によるものというよりは、地域銀行が本来の経営理念に背を向けて、低金利局面の中でプロダクトアウトの物売りに成り下がったことによる収益力の激減にあります。

そういう状況でノルマを張って強引に収益を上げようとするから不祥事や事故に繋がるのです。CS もES もあったものではありません。

経営理念そのものである顧客本位のビジネスモデルの構築を怠り、銀行の自己中心的で身勝手な業務運営が横行したため、顧客からそっぽを向かれ、従業員は早期退職し、結果として銀行の収益も悪化するという「負の循環」に陥っていることは明らかです。

従業員の早期退職は、間違いなく経営陣に対する「ダメ出し」のメッセージです。

昨今、360度評価、下からの評価が大事であるとの論調が出てきていますが、早期退職が多いこと自体が360度評価的な経営陣への「ノー」です。これは株主からの株主総会における役員選任の否認票よりもはるかに痛烈です。

このまま行くと、「行員の早期退職の急増で、現場が崩壊し、経営陣を刷新しても解決策にはならない」という恐ろしい展開が想定されます。クワバラ、クワバラ。

これからは、X 銀行や P 銀行のような再生マップを描くことができません。

地域銀行の再生に際しては、経営陣の刷新のみならず、現場の核になる人たちの補強も同時並行的にスピーディに行わねばならないでしょう。地域金融機関 OB で腕に自信のある猛者たち (金融商品の物売りに自信があるだけの人は失格ですが) の出番かもしれません。

地域銀行の経営陣は、貸付債権や運用有価証券のような有形資産の中身にばかり目が行っており、その源泉となるヒューマンアセットという無形資産を驚くほど軽視しています。中堅若手行員の早期退職を実に甘く見ています。

このことが、今後の地域銀行の蘇生を格段と難しくします。

経営陣をクビをすげ替えることよりも、現場の人材を揃えることの方が、はるかに難易度が高いことを、当事者 (認めたくないでしょうが) はもとより、行政当局も含め、もっと認識する必要があるのではないでしょうか。


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする