我が国では小規模事業者でも複数の金融機関取引があり、中小小規模企業の9割が一行取引であるアメリカなどと大きな違いがあるのですが、そのためメインといえども事業者とガッツリ向き合っておらず、信用保証協会の保証部分が多いことから、貸しっ放し状況となっているケースが少なくありません。
ある会合において、次のような問題提起がありました。
2015年1月に金融検査マニュアルの改訂で短期継続融資の取り扱いが是正され、長期資金化した正常運転資金が本来の姿に戻ることが期待されたものの、その通り進まなかったことは複数行取引に原因があるとの指摘です。肯首、肯首です。
https://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20150120-1.html
金融検査マニュアルの改訂から6年を経て、中小小規模事業者の取引金融機関数は減るどころか、増加しているとのこと。愕然としました。
信用リスクのないゼロゼロ融資はこの流れを加速しています。
地域金融機関の多くは取引先数を増やすことを目標に掲げていますが、取引金融機関に名を連ねるだけで、金融機関による事業者の経営改善・事業変革の支援に腰が入りません。
小規模事業者と一対一で向き合い、とことん伴走する金融機関(協同組織金融機関となるでしょう)が求められます。
金融機関の目標は「取引先数を増やす」ではなく、「責任もって伴走支援する取引先数を増やす」に改めるべきですね。
地域金融機関、とくに協同組織金融機関、の経営者に見識を問いたいところです。
さらに、
過去に協同組織金融機関が本来の役割を怠って消滅し、空白地が生じていることは周知の通りですが、この空白地問題を早急に解決しなければなりません。
コメント
月刊しんくみ3月号の特集ー「相互扶助」という、人の願いからデザインする信用組合を考えるー金融庁協同組織金融室の奈良義人氏の文章は素晴らしいものです。
信用組合に勤める若い職員向けに信用組合とはどういうものなのかを説かれています。
ーお客さまは信組や銀行の外にいるので主客分離だけど、組合員は信組の中にいるので「主客一体の関係」にある。銀行や信金ましてや隣の信組と比較した信組ではなく、信組は信組として組合員とともに絶対的価値を追求し、極めて行くことが大切。ー
と、そして「金融機関性の視点でなく、すべての行為、考え方を協同組織性の視点から立ち上げてみる、これが信組の磨き上げの出発点だ。」と。
若い信組職員だけでなくベテラン職員もしっかり読んでこの精神を植え込んでいただきたいと思います。
【短期継続融資が定着しない隘路】
確かに、最初の隘路が「複数行取引に原因」があるのは事実だと思います。
◆一方で、お取引先と向き合い事業をしっかり把握して取引しようとする金融機関は積極的に短期継続融資に取り組んでいます。
資金管理ができることが前提となりますが、そのプロセスは次の通りです。
①経常運転資金を把握し、見合う額を短期資金(経常運転資金である限り返済を求めず継続するのが前提)で融資する。
②その資金で、要償還債務(有利子負債ー経常運転資金)を超える他行の貸出金を返済する。
※当然他行からは反発があります。その反発が怖く事業者は短期継続融資に腰が引けます。企業者にも金融機関にも覚悟と相互の信頼関係が必要です。
③要償還債務で返済財源(キャッシュフロー)の足らない部分については手貸(疑似資本的役割を果たす、いわゆる転がし)で対応する。場合によっては資本的資金を投入する。
④結果的に一行取引となる。
彼らの特徴は、事業性をしっかり見極め取組方針を明確にし、覚悟をもって取り組んでいるということです。
◆「取引金融機関が多い」ということを「短期継続融資に取り組まない理由」に挙げるとするなら、その金融機関は事業性評価(理解)が「”なんちゃって”になっており、経営に覚悟がないと同時に、お取引先企業の信頼を得ていない証と考えるべきだ」考えてしまいますが、言い過ぎでしょうか?
よく見ると、長短融資比率が1%、2%改善を始めている金融機関もあります。5000億円の2%は100億円です。中小零細企業を取引の太宗とする協働組織金融機関には途轍もなく大きな努力の結果に見えます。
◆地域金融機関の皆様には、返済財源のミスマッチ(資金繰弁済するべきものか、収益弁済か)は直接中小企業の資金繰りに影響するものであることから、(理想的にいうなら)自金融機関の事業性評価と財務実態を見極める目を信じて、一行取引を辞さぬ覚悟で短期継続融資に取り組んで頂きたいと思います。
なお、中小企業をきっちり見極める力を持った職員が残念ながら育っていない・・・というのも隘路だと感じています。
◆余談ですが、
中小企業の経常転資金は、システム的に機械判定出来るものではないと考えています。きっちり財務実態と収益力実態を見極める目を持った職員を育てて頂きたいと感じています。