中央官庁の事務年度の最終月となり、「政策評価」の時期になりました。
政策評価というのは、中央官庁が、自らその政策の効果を把握・分析し、評価を行うことにより、次の企画立案や実施 (PDCAサイクルですね) に役立てるためのものです。
そもそも政策評価は役所が自ら行うものですが、金融庁のように評価の客観性を確保するために外部有識者の意見を聴くことが多いようです。(→ 政策評価有識者会議)
https://www.fsa.go.jp/seisaku/kakokaigi.html
金融庁の「政策評価有識者会議」(今年は第27回) は例年、フルオープンの形式で行われているのですが、当該会議を目前に控え、PDCAのいわば「P」の根幹である「平成29事務年度の金融行政方針」を改めて読み直しています。
周知の通り、金融行政方針29 では、金融行政の視野を、「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へと広げる、新しい検査・監督の実現を標榜しています。
金融仲介機能についていえば、行政の着眼点が、「過去のB/S」から「将来の健全なB/Sを作り上げるための持続性のある P/L 」へと大きく変わることです。
これにより、行政手法は、自己資本比率 (過去の結果指標) を基準に発動する早期是正措置から、将来の健全性につながる持続可能なビジネスモデル (顧客本位でなければ捨てられる) の構築に向けての金融機関と金融庁との対話へと変化します。
そして、ビジネスモデルの持続可能性等に深刻な課題を抱えている地域金融機関に対しては、検査を実施し、課題解決に向けた早急な対応を求めるのです。
「持続可能なビジネスモデルの構築に向けた取組みが進まない場合、足下ではバランスシートの健全性に問題がなくとも、将来的に顧客基盤や収益基盤が損なわれることで問題が生じ、その結果として、地域において十分な金融仲介機能を発揮できず、地域経済や利用者に多大な悪影響を与えることにもなりかねない。」(平成29事務年度 金融行政方針 地域金融機関の項)
「持続可能なビジネスモデルの構築に当たっては、地域金融機関の経営者に高い経営能力が求められる中、不確かな経営環境の改善を期待し将来起こりうる課題を認識できていない、若しくは、課題を認識できていながらも具体的な取組みを見出せていない経営者が少なからず存在するなど、ガバナンスの発揮に課題が認められる。」(平成29事務年度 金融行政方針 地域金融機関の項)
今回の福島銀行の社長交代と、島根銀行の取締役相談役 (それにしても変な役職です) の退陣はこの流れの中で顕在化したものと推察しますが、そのことが (当事者である地域銀行も含め) 十分に理解されていないのではと疑いたくなります。
一部のメディアの理解度の低さは絶望的なのですが、それをもたらした金融庁サイドの説明スタイルにも不十分なものを感じていました。(本日朝の福島銀行の業務改善命令の報道では、ある程度改善したようにも見えますが、果たして。。。)
この点は競争のあり方に関する検討会議の報告書 (4月11日発表) が、本旨と関連性のない「日本地図」(だったらなんでそんなものを載せたのかと言われれば弁明の余地なしですが) にだけ注目が集まり、金融機関のブーイングの大合唱を招いている現象と根幹は同じだと思います。
早期是正措置における自己資本比率のような客観性のない基準であるからこそ、金融行政サイドの「対外的な説明責任」は非常に重要であり、この部分は政策評価で改善すべき課題として上げようと思っています。
さて、
注目(?)の島根銀行の新たな施策に関する新聞報道がありました。
「島根銀行は1日、支店から出張所への種類変更、出張所の事実上の廃止を内容とする店舗網の再編を10月1日付で実施すると発表した。同行は2018年3月期決算で本業のもうけを示すコア業務純益が2期連続で赤字になり、経営再建を進めている。店舗網の再編による効率化でコストを下げ、収益力の立て直しを急ぐ。同行の店舗数は現在25支店、9出張所。10月1日からは3支店を出張所に変更し、5出張所を「店舗内店舗」として他店に統合する。
(中略)
その結果、支店や出張所から合計30人程度の人員が減る見通しだ。同行は融資拡大のため優良企業向けよりも高い金利が見込める「ミドルリスク層」の開拓を進めている。店舗再編は本部で営業にあたる人員を捻出する目的もある。」
(6月2日 日本経済新聞 中国版)。
新しい監督検査のいわば最初の事例として、福島銀行とともに、島根銀行における将来の健全性に向けた顧客本位で持続可能なビジネスモデルの構築にワタシも注目しているのですが、「5出張所10月廃止 店舗再編で効率化 」というのでは失望を禁じ得ません。
当然のことながら、店舗の統廃合は一過性であり、持続可能な収益をもたらすものにあらず、また「ミドルリスク層」に取り組むとの (トップラインを増やす) 施策は、口で言うほど簡単ではなく、審査思想の変革、現場のスキルアップ、業績評価や人事考課の見直しなどなど、根本的なインフラ整備が不可欠です。
経営陣の能力のみならず覚悟と本気度がなければ達成できないことであり、果たして現経営陣にその自覚があるものかどうか。
しっかりと注視したいと思っています。