外債投資をなめるな

10日ほど前の日本経済新聞のある地方版記事の抜粋です。

「X銀はマイナス金利政策で貸出金利回りの低下が続くなか、外国債券の運用に頼ってきた。15年3月期の最高益も運用益によるところが大きかった。だが、米国の利上げ対応で後手に回り、9月末で有価証券全体で評価損を抱えるに至った。10月に入りようやく米ドル建ての固定金利債券を全て手放した。痛手は大きい。『収益計画を再構築する必要がある』。◯◯頭取は今期業績の下方修正にとどまらず、中期経営計画に掲げた20年3月期に連結純利益の目標の撤回も示唆。4期連続の最終減益にとどまらず、収益計画の再考を迫られている。
一方、P 銀行は米国債など xx 億円の評価損を解消できていない。株式や国債なども含めた有価証券全体の評価損益はプラスだが、保有し続ければ外債の評価損が膨らみかねない。いつ、どれだけ売るか。ある幹部は『収益面でゆとりが生まれた時期に損切りするしかない』と身動きできない状況を吐露する。」

まったく、これらの銀行は何を考えているのでしょうか?

これがワタシの率直な印象です。

ワタシに地域金融を教えてくれた某銀行のもと頭取は、

「地元向け融資で然るべきリスクをとって、結果として損失を被っても、地元顧客に対し恥ずかしいことではない。それに対し、東京などの県外融資や有価証券運用でロスを出したら、地元顧客に合わせる顔がない。」

と常々言っていました。

このことは社外取締役として、ワタシが地域金融機関での仕事をする際のバックボーンとなっています。

さらに言うと、

地域金融機関が無防備な外債投資をすることに、恐ろしさを禁じえません。

ポイントは為替変動リスクではなく、外貨資金調達に関わるアベイラビリティ・リスクです。

ワタシが新卒で勤めた銀行は外国為替専門銀行 (当時はそういう専門銀行があった) で、円資金調達に苦労する一方で、外貨資金調達力は本邦の金融機関の中で群を抜いていました。

しかるに、ワタシの新入社員の年 (1974年) の8月に、ユーロドル資金市場で信用不安が発生、ドイツのヘルシュタット銀行等が破綻する中で、金利を上乗せしてもドル資金調達に苦慮する状況に直面しました。

その後、通貨危機が起こるたびに、大手邦銀であっても外貨資金調達におけるジャパンプレミアム (上乗せ金利) の洗礼を受けるのを見た経験者にとって、地域銀行が外債投資に収益依存するという構造は異常であり、ワタシにはまったくもって理解できません。

常に国内でローンポジションにある地域銀行の人間にとって、資金調達ができなくなるという状況は想定外なのでしょうが、外貨の世界では当然考えておかねばならないことなのです。

資金調達ができなくなるという恐怖は経験した人間にしかわかりません。

冒頭の新聞記事に登場する X銀行も P銀行も、ワタシに言わせば典型的な「なんちゃってリレバン」銀行です。地域銀行の本分を忘れ、(十分な対策もせずに) 外債投資にうつつを抜かすとは地域のお客さまに対し、どのツラ下げて向き合うつもりなのでしょうか。

蛇足ながら、

地域銀行が外債投資の際に行なっている、レポ取引も 円投swapも、実質的に外貨調達であり、外貨資金市場が逼迫すると厳しい制限を受けることになります。

生兵法は大怪我のもと。


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 森脇ゆき より:

    「地元向け融資で然るべきリスクをとって、結果として損失を被っても、地元顧客に対し恥ずかしいことではない。・・・」

    金融機関の元営業職員であった私にとって、上記のお言葉は感動と感激です。

    職員にとって、しっかり本業で稼くことを経営から求められ、正しく実践できれば、地域に貢献していることを実感でき、充実感をもたらすのだと思います。

    その結果として、収益が上がると確信しています。