「事業性取引先数を増やすことを重点目標に掲げていたが、果たして正しいのか? 最近、疑問に思っている。」
先日、ある地域銀行役員のXさんから意見を求められました。
ワタシの方からは、まずは取引先の中から、単なる「ぶら下がり融資」だけの先を切り出すように言いました。(心の声→結構多いんでしょうね)
こういう先への顧客訪問はせいぜい支店長(それどころか担当者)の交代の挨拶程度の付き合いであり、事業実態をつかめているとは到底思えず、たとえば正常運転資金の把握ができるはずもありません。
与信判断ができるような体制になっていないので、自ずと対象先は信用リスク面での懸念が少ないゾーンとなり、このゾーンには多くのぶら下がり金融機関が殺到して、融資金利は急降下しています。
そう、自らが与信管理できないというリスクがありながらリターンは低い、そういう取引なのです。
Xさんには、このゾーンのボリューム、貸出金利、コスト(ザックリで結構)を算出することをオススメしました。「ぜんぜん儲かっていないことが分かりますよ」
その一方で、ぶら下がり以外の先には、逃げないで最後まで面倒を見る覚悟があるか(もちろん企業経営者が誠実でやる気があり、事業の中に光るものがあることが前提ですが)を問いました。
覚悟がないのならこの議論は打ち止め。
覚悟があるのなら、顧客に対しその旨の決意表明を行い、顧客との対話の機会を増やし、その過程で信頼関係を深め、同時に事業内容をしっかりとモニタリングするための現場の行動様式を根底から見直すよう求めました。
こういう関係ができあがれば、顧客との信頼関係に基づく対話の中からさまざまなビジネスチャンスが出てきます。ファーストコールバンクを標榜する地域金融機関は多いのですが、このような関係があれば、自ずと最初に声がかかります。ぶら下がりでは絶対にあり得ない、ビジネスの伸び代が出てきます。
さらには事業者の業況変化も真っ先にキャッチすることが可能になり、顧客に対し悪化予防策などのアドバイスを行うことができます。あくまでも経営改善支援の視点であり、競合金融機関に先駆けて担保を取るという話ではなく、これにより間違いなく与信費用増の歯止めとなります。
Xさんの銀行もそうですが、多くの地域銀行では、深くコミットする意思のある先とぶら下がりの先とで、現場の行動には大きな違いがありません。
前者との取引採算(与信費用の変化も含む)には改善の可能性はあるものの、後者からの貸出金利収入は過当競争のトランザクションバンキングということでもありジリ貧、与信管理の面からも危ういものがあります。
Xさんには、極めてオーソドックスな「前者と後者のメリハリ」を提言したのですが、果たしてどうなることやら。
お節介ながらフォローアップさせてもらいます。乗りかかった船ですから。
コメント
【限られた経営資源をどこに投入するか・・・重要ですね】
先日ある地銀の元役員(今は関連会社社長)のお話をお聴きしたのですが、昨年から、古くからのお取引先であるのに「今更何をやってんですか?」と支店長の立場では恥ずかしくて聞けないお取引に対して、知的資産経営を切り口に若手職員にヒアリングをさせているそうです。
若手がお取引先の事業に興味をもって聞いていけば、経営者も垣根を取り払いいろいろお話いただけ、若手の意識改革にも貢献しているとお聞きしました。
支店長自ら恥を忍んでなぜ聞けないの?・・は置いといて(少なくとも過去の反省に立った取組です)、事業性評価シートの作成枚数で満足している多くの金融機関(今だにそういう金融機関が多いようです)とは違い、具体性のある、地に足がついた取組みだと感じております。少なくとも形式的ではありません。
目標は3000社と仰ってましたが、その件数にはこだわっていらっしゃらない様子でした。
この地銀、「どう変わっているか?」簡単には成果は見えないでしょうが、注目していきたいと思います。
いまさらながら単純なロジックをひとつ。もし仮にⅩさんの銀行が現場行員に融資量の目標をそこそこ設定していたら、現場行員は、ぶら下がり先とメイン先で、近い将来の融資量の増加期待額をどのように見積もるでしょうか? たぶん前者を大と見るのです。好景気のいけいけどんどんの時代ではないので、現時点でシェアの小さい取引先のほうが伸びしろが大きいと。典型的な近視眼ではありますが現場行員には罪はありません。経営陣が頼りないのです。