適者生存 ( Survival of the Fittest )

横浜銀行が地元である神奈川県内を7分割し、それぞれの地域戦略や経営について専任の責任者、地域本部長を置くという営業体制を発表しました。

本日の日経神奈川版によれば、「各地域がミニバンクとして、各本部長がミニ頭取として活動する」(川村頭取) とのことで、ミニバンクはそれぞれの地域の中長期的な課題に腰を据えて取り組むことになります。

先週19日の日経金融シンポジウムにおいて、横浜銀行 川村頭取、日経新聞 玉木経済部次長と鼎談を行なったのですが、その席でもミニバンク構想が論点となりました。

「真の意味で顧客と向き合いリレバンをやるためには県単位は大きく、ダウンサイジングする必要がある」という展開に、統合合併の話を聞きたかった聴衆の方々 (そういう事前質問もありました) の期待?を裏切ったかもしれません、苦笑。

さて、地域金融機関の合併統合でよく出る言葉に(銀行の)「共倒れ」があります。ワタシはこの言葉に大きな違和感を持っています。嫌悪感すらあります。

AIフィンテックに代替されるであろうトランザクションバンキング、プロダクトアウトの物売りだからこそ「共倒れ」となるのです。

「共倒れ」という言葉には顧客軽視のにおいが充満しており、臆面もなく「共倒れ」というようではレイジーバンクであることを自白しているようなものです。

リレバンで顧客と真の意味で向き合い、顧客のニーズにしっかりと応えるべく創意工夫を重ねていけば、「地域金融の課題と競争のあり方」報告書の分析にある「県内に銀行が残らない」などという結果にはなりません。

言うまでもありませんが、地域金融機関は地元顧客のために単なる金融仲介のみならず、本業支援、コンサルティング機能まで提供することが可能だからです。

さて、長崎では顧客軽視の債権譲渡まで踏み込んで統合合併という「目的」をクリアしようと銀行が躍起になっています。

長崎の議論でも「共倒れ」という言葉をよく聞くのですが、創意工夫の組織的継続的なリレバンが弱いからに他なりません。ホームページにアップされている十八銀行の新中期計画を見ても、残念ながら創意工夫の組織的継続的リレバンを感じることができないのです。

翻って、「顧客接点」と「顧客を支える資本」は絶対に一緒にすることなく、スケールメリットはバックヤード (システム、ロジスティックス、金融商品の兵站部門など) の包括業務提携で、という千葉-武蔵野アライアンス (CMA) は着実に成果を挙げています。

地方銀行の雄である横浜銀行と千葉銀行のスタンスを見るに、「規模の追求さえすれば良い」という視点はもはや感じられません。

「地域金融機関の再編」という流れが変わったと考えるべきでしょう。

結局のところ、地域金融機関が勝ち残れるかどうかのポイントは、規模ではなく、“顧客に寄り添った創意工夫”です。

ダーウィンの「種の起源」に出てくる「適者生存 (Survival of the Fittest )」にあるごとく、大きくなるだけの地域金融機関は絶滅種への道を歩むことになるに違いありません。

Fittest なのは、顧客本位の持続可能なリレバンビジネスモデルの地域金融機関なのです。


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 寺岡雅顕 より:

     本日(26日)「公取委、債権譲渡案を容認」の日経記事にはがっかりしています。むしろ怒りを感じます。

     最後の方に 合併に向けた隘路が二つ示してありますが、見出しを見る限り「合併統合が既定事実」であるような印象を受けかねません。

     地元長崎の中小企業者は大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。

  2. 旅芸人 より:

    寺岡さま

    銀行の顧客軽視、顧客無視もここまで来たかという怒りしかありません。十八銀行の経営陣は内向きな人間だけで固められていると言われます。顧客と距離があるんでしょうね。今の時代の地銀経営陣としては不適格です。

    公取委は「できるものならやってみろ」というようなスタンスに見えます。

    長崎の顧客は実におとなしい。大阪だったら大騒ぎでしょうね。

    こういうところで地域差が出ます。

  3. 寺岡雅顕 より:

     「公取委は問題の抜本的な解決策が示されなければ統合計画を差し止める「排除措置命令」に踏み切る意向」

    日経電子版ではこうなってますね。九州・沖縄版のようですが・・・。

     同じ日経で、この温度差はどうしたもんでしょう?

  4. 旅芸人 より:

    日経内部で論調が違うとすれば、公取委の番記者と金融庁の番記者という発信者の違いなのかもしれませんね。

  5. 橋本卓典 より:

    環境に適応し、生き残ったのは大恐竜ではありませんでした。視力を捨てて、ヒゲと嗅覚を鋭くしたモグラであり、巨体を捨て、冬眠や変異ででエネルギー効率を手にしたヘビやカエルやトカゲでした。

    トランズアクションの銀行機能がアプリになろうという時代に、生き残るのは、身軽さであり、揺るがぬ顧客との繋がりであり、リレーションに他なりません。ホールセールであれ、リテールであれ、同じ理屈です。無駄だと唾棄してきたものに価値があるわけです。

  6. ミザール より:

    橋本さんのご指摘の通りです。金融機関は本来の使命・存在価値を再認識する必要があります。

    効率を生産性とはき違えて、省いてきたものを確認しそれが組合員・お客さんに喜ばれ役だったのか今金融機関は検証することが求められています。もちろん時代・環境の変化を考える必要もありますが。