続 可変料率の目的は何か?

「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~ (令和元事務年度)」が本日公表されました。

金融庁の本事務年度の行政方針です。

これからじっくり読むつもりですが、「金融仲介のあり方検討会議」(ワタシは皆勤賞です) などで議論されたことが、しっかりと盛り込まれているようです。

個別項目となると、8月27日のブログで書いた通り、「預金保険料の可変料率で地銀の再編を後押し」という新聞報道に非常に違和感があったので、早速、該当箇所を確認しました。

94ページです。

将来にわたる規律付け・インセンティブ付与のための預金保険料率

 【本事務年度の方針】

預金保険の対象金融機関145は、預金保険の対象となる預金の量に預金保険料率を乗じて 算出された預金保険料を、毎年度、預金保険機構に対して納付している。

この預金保険料率は、これらの金融機関に対して同一の預金保険料率が適用されているが、 現行の預金保険法においては、各金融機関の健全性に応じて異なる預金保険料率(可変料率) を適用することも許容されている。また、可変料率は海外でも多くの国で導入されている。

地域金融機関の将来にわたる健全性を確保するための規律付け・インセンティブ付与としての機能も視野に入れ、現行制度を前提にしつつ、預金保険料率のあり方の方向性について、 関係者による検討を進める。〜 

(以上が原文)

「将来の健全性を確保するための規律付け・インセンティブ付与」とは書いてありますが、これをどうやって「可変料率で再編を後押し」と解釈するのでしょうか。

摩訶不思議です。

 

 

 


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 八代恭一郎 より:

    地域金融関連政策が地域金融の合併再編を意図しているように捉えられるのも無理はありません。地域金融機関の持続可能なビジネスモデルに関するベストプラクティスが、その多様性から、明言を避けてきていることが原因です。資産形成については「(販売会社は)顧客の運用成果に極力手を付けるべきでない」というベストプラクティスが定着してきたこととは対照的に。

    収益性が低下していくにつれ、経営者は細るトップラインにふさわしい経営資源コントロール(コスト削減)を行うものです。存続可能性が改善しない状況で、預金調達コストに含まれる預金保険料率が下がることは歓迎されるでしょう。預金保険料のようなコストはあまり地域経済に影響はありませんが、対面サービスを提供する店舗網などを縮小すれば、地域経済に悪影響があるとされます。地域経済を踏み台に地域金融機関自身の財務を改善するわけです。同時に店舗網が縮小した地域金融機関の競争が弱体化し、撤退しなかった銀行の貸出金利や手数料に競争が失われると、地域経済に悪影響があるとされます。こちらは地域経済への支配力を強めた地域金融機関が、トップラインの改善を果たすわけです。5%の出資比率制限撤廃もこの趣旨です。この行政方針は、合併再編を推奨しなくとも、合併再編を進めるにあたり発生しうる支障を取り除く貢献をしようとしているのではないでしょうか。

    地域金融再編によって生じるであろう、これらの地域経済を踏み台にした地域金融機関の収益性改善を容認するような流れが、未来投資会議文書以降できつつあります。誰が見ても、合併再編することで、危機に瀕した地域金融機関の存続可能性が改善していくと読めるように思えます。

    地域金融機関の持続可能なビジネスモデルに関するベストプラクティスが空白であるがゆえに、合併再編がベストプラクティスとして定着しつつある危機感を持っています。地域金融機関が多様であったとしても、地域経済を踏み台にすることを禁じる「地元とする地域の経済活性化を犠牲にして、一切の自行財務改善を意図した金融仲介を行うべきではない」というベストプラクティスでも早い時期に示されていれば、こんなことにはならなかったのでは。

  2. 橋本卓典 より:

    八代さんの「地域経済を踏み台にすることを禁じる」ですが、地方銀行の健全性を監督・所管する金融庁に担わせているところに利益相反の疑いがないともいえません。

    確かに「『地域経済の中長期的な元気』がゆくゆくは地域金融機関の経営基盤となり、中長期的健全性につながる」というロジックは議論の余地なく成立します。

    「そのためには、まず金融機関に改革するだけの余裕がなくてはならない。よって広域再編させ、必ず生き残ることができるという保証を与える。その上で、余力を『地域の元気』のために振り向けてもらう」というのが、現在の金融庁の均整のとれた答えでしょう。

    ここに私は「本当に大丈夫ですか?責任とれますか?」という疑念を拭いきれません。

    まず、何を持って監視・計測するのですか?まさか「貸出金利が上がらないようにする」・・・(笑)そんな計測で地域は元気になるんですか?

    もう一つ、預金保険料が合併銀行のコストに有利に働くと仮定するならば、持ち株会社傘下銀行ではなく、新たな合併銀行は限られた経営資源の投下先を厳選しやすくなるでしょう。単年度決算で、価値が数字に表れない「事業承継支援」は後回しになりやすいバイアスが働きます。これをどうけん制、監視するのでしょうか。そんなところまで金融庁は、微に入り細に入り、責任を持てますか?

    議論は堂々巡りの様相を呈します。

    シンプルなのは「もっとも近くで現場を監視する顧客が選ぶ」という答えです。

    しかしながら、圧倒的優越的地位の誕生を、何の恐怖もバイアスも抱かずに、是々非々で監視できる顧客など存在するのでしょうか・・・

    「選ぶ」というのは選択肢があるからです。

    またもや堂々巡りの・・・

  3. 八代恭一郎 より:

    ベスト・プラクティスが明示されると、確定するといった表現があったことが誤解を招いたようです。すみません。明日にでも、修正しておきます。行政文書や法令で確定したら、それは確かに利益相反です。そこを上手にかわしながら、資産形成に関する顧客本位の業務運営は進展を見せました。そして、昨年からの共通KPI開示要請や今年の報告書での自主的に公表されるKPIにダメ出しされることで、「もう預かり資産で儲けようなんて思っちゃいけない」という”気づき”を与えていただいたと理解しています。法令や行政文書でベスト・プラクティスを明示するわけにはいかないので、遠回しに気づきを与えていただければ、利益相反とはいえませんでしょう。法令違反を避けながら、堂々巡りにならないようにする技術くらいは、頭脳明晰な官僚の方々はお持ちと考えております。